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写メ日記

全89件中1~10件を表示

龍生の投稿

静寂と爆音と、金色の尾が駆けるとき

07/25 23:10 更新

ふたつの仕事を
同時に抱えていたあの頃──

ひとつは、会社員としての顔
もうひとつは、会社を辞めるための秘密のプロジェクト

その日、富士山が見える小さな町へ向かった
顧客のいる物件は、駅から歩いて1時間もかかる場所にあった

仲間たちは迷わずタクシーを選んだ
でも僕は、一人で歩く方を選んだ

「お前ってさ、協調性ないよな」

笑いながら放たれたその言葉を
心のどこかで気にしつつ
今日もまた、僕は一人だった

途中、大きな橋のそばに
狐色の木造の店が現れた

軒先には
おかっぱの、狐の目をした少女が立っていた

奇妙な静けさ
でも僕は足を止めなかった
“面白そうな場所だな”と
心の隅でつぶやきながら

富士山は空の近くにあって
静かで、美しかった

顧客との打ち合わせは、淡々と終わった
その直後──
電話が鳴った

もうひとつの仕事
僕が命をかけて育てていた、唯一の武器だった

独自に作ったコンテンツ
誰にもできないシステム
僕は、それを仲間に共有していた
見返りを信じて

だが
電話の内容は、裏切りだった

僕のノウハウだけが
“都合よく”抜き取られていた

“またやり直せばいい”
そう思い込もうとしても
胸の奥は、ぽっかりと穴があいたままだった

帰り道、再び一人で歩き出す
仲間たちは、タクシーに乗って帰っていった

そのときだった

──ドォン……

地の底から、獣のような咆哮が響いた
振り返ると、空が赤く染まっていた

富士山が、爆発していた

地響きとともに大地が揺れ
建物が崩れ、空が灰に飲まれていく

太陽は見えなくなり
町はパニックに包まれた

溶岩が迫ってくる
人の叫びと、轟音と、炎のにおいが混ざり合う

タクシーの屋根が、赤い津波に呑まれていくのが見えた

僕は無我夢中で走った
あの橋へ──あの道へ

だが、橋はもう崩れていた
戻る場所も、進む場所も、ない

終わった──そう思ったそのとき
目に飛び込んできたのは、あの店だった

そして、店の前に
あの少女が、まだ立っていた

「見えてるんだろ?」
「早く入りな」

声は小さかったのに
なぜか、すべての音をかき消すようだった

僕は扉を開けた

一瞬、視界が真っ暗になり──
次の瞬間、風の音と、草の匂いがした

目の前にあったのは
何事もなかったように、穏やかな風景だった

空は澄み、富士の稜線が静かに浮かんでいた

どこからか、少女の声が聞こえた

「一人で歩いてきたから、見えたのさ」
「唯一無二ってやつだね」

そのとき、金色の尾を翻しながら
一匹の狐が、遠くを駆け抜けていった

僕は気づいた

また創ればいい
また信じればいい

さらけ出して
奪われても
それでも、歩き続ければ

誰もやっていないことを
誰よりも深くやり続ければ

僕にしかなれないものになれる

それが──
唯一無二

そして今も、
僕は歩いている
あの日の続きを
富士の頂の、そのさらに先を目指して

6598

逃亡と引金と、ラストエスケープ

07/24 23:08 更新

東京に帰ってきた僕は
すべてがうまくいくと思っていた。
新しい会社、小さいけれど
そこで結果を出せば、次の扉が開くと信じていた。

スキルも経験もあった。
最初からマネージャー候補だった。
でも、それが火種だった。
嫉妬は静かに広がり、
やがて社内に悪い噂が立った。

そして、ある日。
突然、辞令が出た。

「君の給料は50%カット。現場に行ってもらう」

違法だ。どう考えても。
でも、僕は呑み込んだ。
“とりあえず”また転職すればいい。
そう言い聞かせて。

向かった先は、廃棄物処理工場。
汚物と臭気が染みつく、地下の世界。
溶鉱炉が唸りを上げる。
けれど、そこにいた人たちは
不思議なほど、みんな優しかった。

その中に彼女がいた。
黒髪を後ろで結び、
引き締まった身体に作業着を纏った現場リーダー。
どこか凛とした美しさと、
闘う者の強さを纏っていた。

「音楽は何聴くんだい?
あたしはクィーンとか、パンクとかヘヴィメタが好きだね」

「クィーンていいですよね。自由の塊みたいで」

彼女は笑って言った。
「あんた、逃げてきたんだよね。
逃げるってのは悪くないよ。
でも――逃げる方向を間違えると、地獄を見るよ」

その言葉が、深く刺さった。
そしてあの日から、
僕は夜の帰り道で
背後に“何か”の気配を感じるようになった。

ある日。
地下溶鉱炉の作業中、
その“気配”が、姿を現した。

鋼のような拳が背後から襲いかかる――
間一髪、僕はかわした。

そこにいたのは、
爛れた顔をした、3メートルはあろうかというタイラント。
巨体を揺らしながら、
怒りの咆哮を上げて拳を振るってくる。

僕は走った。逃げた。
廃棄物の山をすり抜け、
出口を探してさまよった。
でも、行き止まり。
壁を背に、拳が迫る――

そのとき。

“ドカン!”

炸裂する音とともに、
タイラントの顔面に強烈なストレートがめり込んだ。
ふっとんだその先に、彼女が立っていた。

ロケットランチャーを肩に。

「ラストエスケープ」

そして、僕の目を見て言った。
「次に逃げるのは、どっちだい?決めてきな」

差し出されたランチャーを握り、
僕は引き金を引いた。

火花と爆風――
タイラントは砕けて、溶鉱炉の中へ沈んでいった。

翌朝。
彼女の姿はなかった。
同僚に聞いても、誰も彼女のことを知らなかった。

まるで、最初からいなかったように。

でも、僕は知っている。
あれは“自由”が姿を変えて、
僕の前に現れてくれたんだと。

だから僕は辞表を出した。

もう間違えない。
逃げてもいい。
でもその逃げ道が、僕自身に正直なものであるなら――

そこは、
たしかに“未来”に繋がっている。

そしてきっとその先に、
誰にも奪えない光があると、信じている。

6598

雷雨とサークルと、正体不明の光

07/23 22:08 更新

雷が鳴る
豪雨の中を走っていた
空を見上げながら
自転車のペダルを、漕ぐ、漕ぐ

大きな公園の真ん中
木々が円を描いて囲む
静かなサークルの中心へ

フェイクな感謝ばかりを配っていたあの頃
言葉は繋がらず、
「ありがとう」が空回りする毎日
明日が来ることすら
忘れたふりをして、走っていた

そんなある日
ふと目に入った、リアルな「ありがとう」
昔の僕なら、
きっと斜に構えていたはずだった
でもあの日
あのサークルの下で
僕は、シャッターを切った

まっすぐだったはずの思いが
ゆっくりと円を描き始める
大人になりきれない僕の中で
何かが戻ってきた
「やってみようかな」と思えた、あの日

忘れていた“あの日の続きを”
未来に繋げたいと思った
君と見る景色が、
円を描くように広がっていく

そして思い出した
雷が鳴る、あの空に
確かにいた――
雲を割って弧を描く、光をまとう龍

その姿に、
僕は自分の未来を重ねていたのかもしれない

正体不明の人生
でも、流れていく
創って、伝えて、届いていく

光は、
きっとその先にあると信じて。

6598

手鏡とポケットと、暴食の6(シックス)

07/23 00:41 更新

あの頃の僕は、
始発で現場に向かい、終電で帰る日々を生きていた。
通勤時間は往復4時間、
パンパンの電車に潰されながら、
心はいつも圧縮されていた。

現場の最前線から、本社の管理業務まで。
全部ひとりでこなしていた。
でも、誰も見ていなかった。
上司たちは、成果だけを吸い上げる。
それはもう捕食だった。

支配欲と、捕食欲。
会社の中には、そんな欲が充満していた。
生き残るには、飲み込まれるか、飲み込むしかない。
そんなルールが敷き詰められていた。

ある日、管理している大型物件で
大きなイベント案件を任された。
得意分野だ。スケジュール、交渉、すべてを設計していく。

その案件に、外国からの特待生のような立場の女性が
一時的に僕の部下として配属された。
最初は期待していなかった。
だが彼女は、想像以上に仕事ができた。
指示した通りに、完璧に資料を整える。

彼女が加わってから、現場は少し明るくなった。
僕はひとりじゃなくなった。

だが、彼女の評価が上がっていくにつれて、
自分の影が薄くなっていく気がした。
苛立ちが募っていった。

そして――
ある日、6階でイベントの打ち合わせ中に、
彼女が言った。

「嫉妬って嫌ですよね。
いろんな人の助けがあって今の自分がいるのに、
“できる”っていう傲慢さが、自分を見えなくさせるんですね。」

僕は何も言えなかった。
言葉が喉の奥で詰まった。
そして、やたらと空腹を感じた。

そのとき彼女が、小さな手鏡を差し出した。
「さっき、そこで拾ったんです。」
僕は無言で受け取り、ポケットにしまった。

だが――
彼女は僕の態度に傷ついたのだろう。
強く当たってしまった日を境に、
彼女は、僕のそばから離れていった。
また、一人になった。

イベント当日。
警備員だけが残る早朝の館内で、
僕はサプライヤーたちに指示を出しながら、
照明のチェックに回っていた。

そして6階にたどり着いたとき、
フロア全体が、異様なほど真っ暗だった。

そこにいたのは、
和服を着た、背の高い女性。
こちらに背を向けて立っている。

「すみません、関係者の方ですか?」
声をかけると、彼女はゆっくり振り返った。

その顔は、闇に溶けていた。
のっぺらぼう――いや、それすらも曖昧な、影のような顔。

刹那、鋭い爪が僕に襲いかかる。
僕は逃げる。館内を、必死で。
体中が傷だらけになりながらも、
逃げ回る。

やがて、破けたポケットから
あの手鏡が、床に転がり落ちた。

化物の動きが止まった。
僕は手鏡を拾い上げ、振り向きざまに
彼女に向かって突き出す。

鏡に映ったのは、
醜く歪んだ、彼女の“本当の顔”。

化物はそれに絶叫し、
身体が炎のように崩れ落ちていった。
6階は、静寂に包まれた。

気づけば僕のポケットは、空だった。
手鏡はもう、残っていなかった。

そうか――
僕は、6番目の罪に取り憑かれていた。
嫉妬という名の闇に。

会社という名の船。
そこには、暴食と支配の匂いが満ちていた。
知らぬ間に僕も、
誰かを飲み込もうとしていた。

だから僕は、
その船を降りた。

暴食が集うその船から
空っぽのポケットで駆け出して
今は、風を感じながら
自分の感性を翼にして飛んでいる。

6598

太陽とエルフと、手首の風船

07/21 21:16 更新

太陽に向かって
ただ、自転車をこいでいた。

焼けるような空気のなか、
風だけが、まともだった。

本屋に着く。
手にしたのは、
最強なのに静かな、エルフの物語。

永く生きる彼らは
別れをいくつも越えて、
それでも静かに、前へと進む。
まるで、何かを知っているように。

彩りのある料理を
ひとり、静かに味わう午後。
そのあたたかさが
胸の奥をぽつりと染めていく。

思い出す。
1日で消える、ドーナツのような甘い記憶。
暑さの中で並んで、
渡したら、笑ってくれた。

1日で消えてしまう甘さも、
遠くまで届く笑顔も、
風に乗れば
どこかへ行ける気がした。

見上げると、
手首からふわりと風にほどけて、
風船が太陽に向かって舞い上がる。

何も言わず、
まっすぐに、遠くへ。

きっと、届く。
そんな気がした。

6598

青と風と、キラキラ光る

07/20 17:56 更新

天井を見上げると
金色のキラキラとした照明が揺れていた。
そのすぐ隣には、
静かに触れてくる体温があった。

あの頃の僕は
結果を出すために、
すべての時間を一点に注ぎ込んでいた。

他の人がやらないこと。
誰も手を出さない領域。
そこにこそ、自分の道があると信じていた。

だから、
逃げ道を断った。
結果が出なければ生きていけない、
そんな設計図を自分の人生に引いた。

仲間たちの眼差しは知っている。
「無理だよ」と思っている顔の奥で、
口だけの応援が静かに揺れていた。

会社員を辞めてから、僕は変わった。
同じやり方じゃ、
“楽しくなければ意味がない”と気づいた。

苦しい道を耐え抜くようなことは、
もう会社で散々やってきた。
これからは、
楽しい方にしか進まないと決めた。

誰もやっていないことを見つけて、
それを、自分だけの方法でとことん突き詰める。

怖いくらい手応えがない日々。
でもだからこそ、自由だった。

地面はない。
下には水。
足を乗せると沈みそうになる、
深く澄んだ青の山を、僕はひとりで登っていた。

どこかで陽が射し、
その一歩ごとに
苦みとやわらかさが交じり合うような感覚とともに。

疲れ果ててソファに沈み、
天井を見上げる。
白熱灯の眩しい光が、
毎晩、僕を照らしていた。

その光に照らされながら眠りにつく。
その繰り返しのなかで、
ある日、光が少し変わった。

点と点が繋がった。
僕の描いた設計が、地図になり始めた。
誰にも理解されなかった地道が、
線になり、形になり、道になった。

天井を見上げると、
金色のキラキラとした照明が揺れていた。

抱きしめたぬくもりが
背中から胸へ、腕へ、確かに流れていく。

そのぬくもりのなかで、
ふと、川が体温とともに蒸発して
空を舞い、海になり、風になって、
やがて言葉になって誰かに届く――

そんな感情が、静かに湧き上がっていた。

地面のない、青い山を登っている。
だけどその手には、ちゃんと地図がある。

設計することを諦めなかった僕が、
光の見える方へ進んでいる。
そして今、
その光のなかで、やわらかく息を重ねながら、
静かに抱きしめている。

誰かの体温を確かめるように、
僕自身の鼓動を信じるように。

6598

部屋と少女と、ブラックコーヒー

07/18 22:02 更新

あの頃の僕は
酷く大きなショックを受けていて、
ソファに沈み、ウィスキーに沈んでいた。

夜が更けて、
新しい酒を買いに行こうとした瞬間――
部屋のドアが、なかった。

え? と思った。
リビングに閉じ込められた。

壁には、黒い文字で「RSB」と書かれていた。
何かの暗号だろうか?
考えても、まるでわからない。

時がどれほど流れたかもわからないまま、
空腹が、心を削っていく。

そのときだった。
暗闇のなかに、
一瞬だけ浮かんだ大剣と少女の幻影。

もう一度、壁の「RSB」を見た。
R=River(川)
S=Sun(太陽)
B=Black(黒)

部屋の片隅に、古びたポットがある。
僕はコーヒーを淹れた。
濃く、苦く、真っ黒なそれを飲み干すと――

次の瞬間、
視界がブラックに吸い込まれた。

気がつくと僕は、
巨大な大剣の前に立っていた。
隣には、言葉を話さない
子どものような少女。

手を繋いでいる。
それが、今この世界での唯一の真実。

目の前には、
黒い波動を放つ魔女の影。

次の瞬間、
暗黒の波動がこちらへ襲いかかる。

逃げ場はない、と思った瞬間――
大剣が光り、黒を裂いた。

けれどその反動で、大剣は弾け飛ぶ。

「……思い出した」
僕はこの闇と戦っていた。
彼女と一緒に。
この無音の旅の中で。

大剣を拾い、前へ。
波動を防ぎ、また弾かれる。

何度も何度も繰り返しながら、
少しずつ、黒い魔女との距離が縮まっていく。

そして――
彼女の身体が、光に包まれた。

その瞬間、
羽を持つ妖精のような
美しく凛とした大人の女性に変わっていた。

彼女は空を駆け、
黒い魔女へと一直線に突っ込んでいく。

そしてその身体は、
闇と光が交差するように
ひとつに溶け合っていった。

「光と闇は、一緒に存在しないといけないの」
彼女の声が、風のように響いた。

彼女と魔女が一体となって、
僕の手にある大剣へ向かってくる。

触れた瞬間――
世界が砕け、
爆ぜた光の粒子が空へ舞い上がる。

気がつけば、
そこには川が流れ、
太陽が照らし、
風が循環し、雨が降る。

この世界は生まれ変わっていた。

僕は、目を覚ます。

部屋にはドアが戻っていた。
ウィスキーを、キッチンに流し捨てる。

そして、
自転車に乗って、あのカフェへ向かう。

何も見えなかった暗闇の頃、
ブラックコーヒーを片手に
パソコンで“自由の地図”を朝から晩まで描いていたっけ。

ふと、自分の手を見ると――
小さな、でも確かな少女の手の跡があった。

太陽が川を照らし、
風が運んで雨となり、海へ還る。

そんな自由の流れを思い描きながら、
僕はまた、今日もブラックコーヒーを飲んでいる。

6598

絆創膏と喰種と、レールガン

07/17 21:22 更新

「君は考えすぎなんだよ」
上司のその声は、空調と同じ温度で流れていく。

でも僕は知っていた。
考えすぎるからこそ、
細部が未来を決めることを。

資料を整え、心を読んで、
感情の地雷を回避する。
同僚たちが笑って走るなか、
僕は歩く速度で、風の流れを読んでいた。

それは、武器だった。
けれどこの街では、評価されることはない。

そんな僕に、ある日、同じ部署のツンデレ女子が言った。
「ねえ、今度の週末、船に乗らない?」

夜、音楽が流れる船。
グラスの中の琥珀が揺れて、
風がスカートを揺らす。

「先輩って凄いですよね、
一人で全部回してしまう」

彼女の声が、波の音に混じった。
見てくれていたんだと思った。
手を伸ばしかけて――ふと気づく。
彼女の指に、絆創膏。

「熱いコーヒーこぼしちゃって」
その笑顔は、どこか嘘くさかった。

そして、彼女は言った。
「最近、**グール(喰種)**の事件が増えてるらしいですよ」

血の匂いはしないのに、
どこか遠くで警報が鳴った気がした。

船が港に着く頃、
彼女はふと思い出したようにポケットを探り、
僕の手に小さな物を置いた。

「たばこ吸わないかもだけど、これ。
道で貰ったの。先輩に似合いそう」

銀色のライター。
月明かりを跳ね返す冷たい光。
そのとき確かに、風向きが変わった。

翌朝、会社は静かだった。
彼女はデスクで微笑んでいた。
絆創膏は……もうなかった。

僕の胸がざわつく。
違和感という名の声が、内側で叫んでいた。

静かに、アタッシュケースを確認。
そこにはいつも通り、小型レールガンが眠っている。

起動キーを押す。
低い振動とともに、
電磁チャージの音が脳に響く。

エネルギーが溜まるには、少し時間がかかる。
僕は席を立ち、トイレに向かった。

無人の廊下。
張り詰めた空気。
まるで舞台が整っていくような予感。

鏡の前で息を整える。
「……行くか」

ドアを開けた瞬間、
空気が変わっていた。

誰もいない。
物音ひとつしない。
何かが、起きた後の静寂だった。

天井を見上げると、
そこには――
同僚が、血まみれで吊られていた。

赤い滴がカーペットに落ちる。

後ろから、音もなく近づく気配。

「やっぱり、気づいてたんですね」

彼女の声。
もう“彼女”ではなかった。

爛れた肌、異形の眼。
グールの姿で、僕に襲いかかる。

ポケットの中の、銀のライター。
火をつける。
青白い炎が揺れると、
彼女の動きが一瞬止まった。

火は、やはり弱点だった。

僕は一気にアタッシュケースへ駆け、
レールガンを引き抜く。

チャージ完了。
引き金を引くと、
空気が一度、沈黙した。

次の瞬間、閃光とともに
グールの体は粉々に砕け散った。

焦げた匂いの中、
僕は静かに呟いた。

「グール退治を、本職にするしかないか……」

いま、僕は感受性という名の武器を持って生きている。
それは、誰かには“考えすぎ”に映るかもしれない。

けれど、僕にとっては――
未来を読み、危機を察し、
誰よりも早く“撃てる”力だ。

結果なんてものは、
心の奥にある火花から生まれる。

そしてその火花こそが、
僕の自由を、撃ち抜いた。

6598

ミギとヒダリと、欲望のヒトリ

07/16 04:08 更新

左右対称が美しい、美しい心だけが正義──
これが、世の中の常識。

僕の名前はミギ。弟のヒダリといつも一緒にいて、仲が良い。
僕らは両親のいない孤児。
世間では、大人の言うことを聞く“素直ないい子”で、
天使のような心を持っていると評判のふたり。

この生き方は、窮屈だけど波風は立たない。
僕らが我慢すれば、何事も上手くいく。

僕らは、表向きは優しい老夫婦の元に引き取られ、
静かな村で暮らしている。
──けれど、本当の目的は別にあった。

この村には「宝の鍵」にまつわる古い言い伝えがある。
その鍵は、老夫婦が持っているという噂だった。
宝を手に入れれば、お金も、時間も、自由も、すべてが手に入る。

ミギの僕と、ヒダリの彼。
いつも言うことも、考えも、同じだった。

でも、ある日ヒダリが言った。
「老夫婦を痛めつければ、鍵のありかを喋るんじゃないか?」

僕は反射的に言い返した。
「なに言ってるんだ。平和に手に入れなきゃダメだろ」

──この日から、ふたりの意見は食い違い、
天使と悪魔のように、喧嘩が増えていった。
ミギの僕は天使の心を、
ヒダリの彼は邪悪な心を持っていた。
その確執は、日を追うごとに深くなっていった。

そんなある日、老夫婦のもとに新たな虎児がやってくる。
名前は、ダン。

物静かで美しい彼は、
どこか僕らのことを見透かしているようだった。

数日後、彼は言った。
「鍵は手に入れた。深夜に地下室に来い」

驚いた。
彼も、鍵の存在を知っていたのか──。

そして深夜。
ヒダリとともに地下室へ向かった。

そこにはダンが立っていた。
「よく一人で来たね、ミギダリ」

──その呼び方に、違和感を覚えた。
なぜ“ミギとヒダリ”を繋げて呼ぶ?
ふたりなのに、“一人”で来たとは?

隣を見る。
──誰もいなかった。

ダンは微笑んで言った。
「気づいたかい? 君は、ミギとヒダリでヒトリなんだ」

そう。僕はひとりだった。
天使と悪魔、善と悪、愛と欲望──
そのすべてを心に持つ、“僕”だった。

ダンが言う。
「欲望のままに、生きていい。
天使と邪悪は、いつも隣り合わせだ」

その夜、僕はすべてを受け入れた。
もう、宝の鍵など必要ない。
自分を抱きしめて、前に進めばいい。

いま、僕は──
宇宙を飛び回る汽車に乗って、
自由という銀河を、旅している。

ミギとヒダリ、ふたりの声を抱いたままの僕で。

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ヘミングウェイと黄金の鍵と、自由の女神

07/14 22:45 更新

かつてアメリカの文豪ヘミングウェイは、
「パンドラの箱の奥には莫大な宝が眠っている」と語った。
だがその箱を開けるには──
あらゆる恐怖と、孤独と、絶望と、
そして何より「現実」と向き合わねばならない。

 

僕はその箱に、手を伸ばせずにいた。
ただ、誰かの作った地図の上を
正確に歩くことだけに集中していた。

現場の作業員を、いかに長く働かせられるか。
労基に触れないギリギリのラインを探し、
関数を組み、数字を整え、
フードコートの片隅で夜を明かしながら、
“昇進のための資料”を作り続けていた。

──それが僕にとっての「成功への鍵」だった。
でも、あの時はまだ知らなかった。
それが地獄の扉を開く呪われた鍵になることを。

ある日、上司に呼び出された。
「君の肩書きは、今日で解除だ」
静かに、無感情に告げられたその言葉は、
まるで断頭台の斧のように僕を叩き落とした。

 

──そう。
僕は、自分が作った資料で、
自分を処刑したのだった。

その瞬間、
彼は“上司”ではなくなった。
欲望を食い散らかす、“仮面のハイエナ”になった。

僕は知った。
この世界には、
“自由のふりをした牢獄”がある。
そこから抜け出すには、
ヘミングウェイの言った“宝の地図”を手に入れなければならない。

 

そして僕は、ついに決意する。
あのパンドラの箱を開けるときが来たのだ──。

 

警備室から盗んだ黄金の鍵と、
閃光手榴弾、そしてマグナムを手に、
僕は最上階の宝物庫へと走った。
だがそこに立ちふさがっていたのは、
あの仮面のハイエナだった。
マシンガンを構え、僕を見下ろすその顔に、
もう“人間”の気配はなかった。

僕は手を上げるふりをして、
ポケットの中の閃光手榴弾を転がす。
閃光が弾けた瞬間、
僕はマグナムを構え、
ハイエナの眉間を撃ち抜いた。

「あの世で自由の女神にキスでもしてな」

そう言い残し、僕は箱を奪った。
パンドラの箱の蓋が開くと、
中からはあらゆる恐怖と呪いが飛び出してきた。
でもその底には──
“希望の光”が、確かに残っていた。

 

あれから僕は、
その希望の光を帆に受けて、
広大な海に旅立った。

地図を捨て、自分だけの地図を描きながら──
自由を求める仲間たちと出会い、
ときに孤独と闘い、
ときに笑いながら。

そして今日もまた、
空に掲げた希望のコンパスを頼りに、
まだ見ぬ世界へと、航路を引いている。

自由の物語は──まだ、旅の途中だ。

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