ドアが閉まる音と同時に、部屋は静かな音楽に包まれた。
ラベンダーに少しウッドが混じった香り。温めたオイルを手に馴染ませる音が、かすかに聞こえる。
「圧は1〜10でいま“3”くらいです。強すぎたらすぐ言ってくださいね」
頷くと、肩甲骨の際をゆっくり押し流される。呼吸を“4で吸って、6で吐く”と誘導され、吐くたびに体の警戒が一枚ずつ剥がれていく。
腰の左右、背骨の脇を小さく往復する指。
“3→4→6”と段階的に圧が上がるたび、沈み込むベッドの感触が深くなる。
脚の付け根「手前」まで来たとき、胸の奥でドクンとひとつ脈が跳ねた。恥ずかしさが顔に上るのを感じると、
「大丈夫。今日は“優しく深く”でいきますね」
低い声が、体温を一度だけ上げた。
仰向けに変わると、胸元にタオルが掛けられる。
その上から円を描く手。タオル越しでも、触れ方の“迷いのなさ”が伝わってくる。
お腹に移ると、時計回りに小さく→大きく。
中心に近いほど、手の動きは一瞬止まり、次に滑る。
“すすむ・止まる・ゆるむ”のリズムに呼吸が絡み、吐息が少しだけ高くなる。
脚へ戻る。膝裏→内もも→付け根の「周辺」を、速度を変えながら撫で分けられる。
触れ方は乱暴じゃないのに、体の反応ははっきりしていて、背中が勝手にベッドから浮く。
「ここからは合図に合わせます。速い・遅い・止める、どれがいいですか?」
かすかに「いまのまま」と答える。
波は突然ではなく、寄せては返すうねりで近づいてくる。
短い刺激が重なって“縦に”高まったあと、静止の一拍で“横に”広がる。
胸のあたりで熱がほどけ、下腹に落ち、足先へ細い電流のように流れる。
呼吸が追いつかず、声にならない息が漏れる。
一度目の大きなうねりで力が抜ける。
終わった—と思った瞬間、余韻を撫でる軽いタッチが、再び浅い波を作る。
“強さ6→4→5→静止”の小さな揺さぶりで、二度目がくる。
背中が弓なりになり、指先がシーツを探す。
恥ずかしいのに、その恥ずかしさごと受け止められている感覚が、さらに波を連れてくる。
三度目は静かだ。
音楽のテンポと同じ速さで、体の内側がやわらかく明滅する。
目の奥が熱くなり、涙の気配といっしょに、細かな震えだけが長く残る。
やがて、彼の手は“止まる”。
止まった手の温度が、鎮まりゆく心拍と重なる。
タオルでオイルを拭われ、肩に軽い圧を乗せられると、体が再び自分のものに戻ってくる。
「お水、少し飲みましょう。いま地面に足をつけるみたいに、深く一回だけ息を」
白湯が喉を通る感覚まで、やさしく確かだ。
「よく頑張りましたね」
その一言で、肩からふっと力が抜ける。幸福感は派手ではなく、長く続く余熱のように静かだった。
