雨が激しく降る夜だった。
車の中、彼女は声を押し殺して泣いていた。
別れを告げたのは僕。
でも、本当に崩れかけていたのは、
あの古びた路地裏じゃなく、僕のほうだった。
彼女は、誰が見ても美しいと言われる人だった。
出会いは不思議で、どこか物語のようで、
気がつけば惹かれていた。
でも彼女が愛したのは、
僕の“外側”だった。
「前の人みたいに、強く言い返したりしてよ」って、どこか拗ねた顔で言ってた。
僕は、うまく笑ってごまかしていたけど、
本当は、自分に自信なんてなかった。
だから、
「好きだよ」って言ってくれる人なら
誰でもいいって、思っていたのかもしれない。
音楽も、服も、言葉も、
全部「どう見られるか」で選んでいた。
自分じゃなく、他人の視線の中で生きていた。
ある日、
街で流れる音楽が耳に残った。
なんとなくリズムをとってみたら、
身体の奥から、
波みたいに楽しさが湧きあがった。
心が、揺れた。
声にならない声で、何かが叫んでいた。
それが、
僕の“目覚め”だった。
もう、
誰かの目の中じゃなく、
自分の感覚で、生きていこうと決めた。
それがどんなに見えにくい道でもいい。
光なんてなくても、
その闇の中で自分が笑っていられるなら。
車を降りたとき、
雨がびしょぬれの身体を打った。
でもそれは、
こびりついていた過去を
ひとつずつ洗い流してくれるようだった。
まるで、God Bless。
僕に、そして、彼女にも。
振り返らずに歩いたその夜、
初めて、“自分という物語”が息をし始めた気がした。
