ひとつの誘いだった
「映画を観に行かない?」
それだけの言葉が、思いがけず
新しい風を連れてきた
彼女は迷いなくうなずいた
孤独を抱えた笑顔の奥に、
どこか透き通るような無防備さがあって
年齢の境界線は、そっと消えていった
スクリーンの中では、
ひとりの少女が
山奥で不思議な扉に出会い
そこから世界が静かに崩れはじめる
それでも彼女は歩いた
壊れゆく景色の中を
小さな希望だけを頼りに
観終わったあと、
夜の街に揺れる灯のもとで
ふたり、少しだけ心をくすぐるように
グラスを重ねた
実はあのとき、
僕の中にも大きな影があった
そして彼女もまた、
言葉にはならない不安と
静かに向き合っていた
だけど彼女の目は、
かすかに震えながらも
確かに“これから”を見つめていた
まるであの少女のように――
その姿が、
どこかで乾いていた僕の心に
やわらかな水を落としていった
未来の自分が、
過去の自分にそっと伝えてくれる
「だから、大丈夫」って
苦しみの先には
希望の扉がちゃんとある
そして今も、ふと思い出す
あの夜、心に残った笑みのぬくもりを
まるで――
ハレー彗星の軌道のように
一瞬で、深く、
僕の空を変えていった
