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写メ日記

全125件中21~30件を表示

龍生の投稿

雨上がりの空とハサミと、動き出す時

08/14 03:24 更新

夜の深い眠気の中
一階から小さなノイズが響いていた
翌朝、何も変わらないふりで学校へ行く
帰り道、道の真ん中で
アゲハ蝶が逆さまになって羽ばたけずにいた
そっと指で起こすと
その蝶は嬉しそうに空へ舞い上がっていった

家に帰り玄関を開ける
そこにはいつもあるはずの何かがなく
静けさが部屋を包んでいた
僕は空白を埋めるように
段ボールを切りスーパーカーを作り
万年筆で漫画を描き続けた
壁の時計は止まったまま
時の音が遠くで眠っているようだった

──そして今日
田舎の学校の清掃バイトに向かった
仲間たちと到着した建物は
巨大な時計塔のような校舎
針は動かず、時間が閉ざされている

事務所には
不気味な笑みを浮かべた女の校長と
悲しげな目をした10歳ほどの少女がいた
「うちの子がやんちゃで…迷惑をかけたらごめんなさい」
校長の声に、冷たい影が混ざっていた

作業を始め、一階を掃除していた僕は
仲間の姿が見えないことに気づく
背後から金属が擦れる
耳を裂くような音が響いた
振り返ると、巨大なハサミを抱えた
醜悪な子供の姿をした化け物が立っていた

刃が振り下ろされる
間一髪でかわし、廊下を駆け抜ける
その影は執拗に追い、壁を裂き、床を砕く
耳の奥で、あの少女の声が囁く
「諦めないで…ポケットを探して」

手を突っ込むと、
そこにはスーパーカーを作ったあのハサミがあった
迫る巨大な刃をすり抜け、
僕は化け物の片目に自分のハサミを突き刺す
化け物が倒れ、沈黙が訪れた

──だが、少女の声は続く
「時計塔の針を動かして…止まっていた時を動かして」
僕は最上階へ向かう
駆動部にたどり着くと、
歯車の間に黒いクサビが打ち込まれ、動きを封じていた

背後から、またあの金属音
振り返ると、死んだはずのハサミ男がそこにいた
その瞬間、階段下から校長が飛びかかってくる
「醜くても…私の大事な子を…!」
首を締める力が増していく
視界が暗くなる、その時――

空から無数の影が舞い降りた
あの日のアゲハ蝶が仲間を引き連れ
光の渦のように校長を取り囲む
羽音が嵐となり、校長は悲鳴を上げ
階段から転げ落ち、静かに動かなくなった

再び少女の声
「子供の時の心を思い出して」
目の前に、スーパーカーと万年筆が浮かび上がる
僕はそれらを一つに繋ぎ、
願いを込めて歯車へ放った
閃光の軌跡を描き、クサビを砕く
歯車は動き出し、時計の針が静かに進み始めた

ハサミ男は絶叫と共に階下へ叩きつけられ
炎に包まれ、灰となって消えた

外に出ると、空は雨上がりの群青
星々が瞬いていた
その瞬きは、止まっていた時が動き出す音のようだった

僕は思った
一人じゃない
あの日の声も、羽ばたきも
子供の時の心が、そっと背中を押してくれる
もう誰の影にも縛られず
自分の足で選んだ道を歩いていける
その道は、自由な空へ続き
星々の光が、これからの僕を
果てしなく照らしていた

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子猫と巨人と、心の刃

08/12 21:54 更新

雨の中
足元でいつも見上げてくる子猫がいる
濡れた毛の奥から光る
まっすぐで澄んだ瞳
抱きかかえて、ぎゅっと抱きしめる
その温もりは、
一人じゃないような気持ちにさせてくれた
最近、毎晩その夢を見る

──現実では
仲間と投資をしていた会社のミーティングの日
ここにいれば、成功者の真似をすれば
自分も同じ場所に辿り着けると思っていた
長い会議、笑顔でうなずきながら
心の中は空っぽのまま
実績者を持ち上げ続ける
「本当に…この場所でいいのか」
その違和感は
帰り道の夜風の中でも消えなかった

翌日
会場に集まった僕らの前で
ワインが配られた
嫌な予感がして、口をつけなかった
リーダーの声が響く
「重要な報告がある…
投資していた事業は継続できなくなった」
沈黙の中で
さらに信じられない言葉が落ちる
「次の事業に投資しよう
成功者の言葉に従えば…」

その瞬間
ワインを飲んだ全員の身体が膨張し
皮膚が裂け、筋肉が剥き出しになり
巨人へと変わっていった
リーダーは笑う
「さあ、同じ方向へ進もう」

僕だけが人間のまま
地響きと咆哮
逃げ惑う中、足元にあの子猫がいた
雨に濡れた瞳が僕を見上げる
抱きしめた瞬間、
体内に電流のような波動が走り
腰には空を駆ける装置
手には巨人を裂く刃があった

瓦礫を蹴り、
雷鳴のような加速で空を舞う
巨人のうなじを切り裂く度に
血しぶきが雨と混ざって降る
息も絶え絶えに
最後の一体──巨人化したリーダーへ突っ込む

「俺がここから出られないとでも思ったか」
「周りの全員が巨人になっても
俺は、自分の心の中に答えがある」

刃が閃き
巨人の体は崩れ去った

──静寂の中、腕の中の子猫が
小さく鳴いた
それは
他人の成功に寄りかかっていた僕に
自分の答えを取り戻させる声だった

その声は、
雨上がりの空に浮かぶ一筋の光のように
これから進む道を、
確かに照らしていた

6598

雨と薔薇と、星の指先

08/12 10:51 更新

扇風機の音と
雨の音が重なり合う
長い雨の中
いつも届く星からのメッセージは
今日は画面を光らせなかった

電車に揺られながら
永遠のように感じていた梅雨を抜けると
目の前に広がった景色は
薔薇の香りと
甘いクリームの匂いが混ざっていた

夏の蜃気楼の中
アイスのカフェラテよりも
熱いコーヒーを選び
4分の4のリズムに身を委ねて
夢の中へと落ちていく

銀河の中で
星は変わらず瞬いていた
その光は
あの日の空気のぬくもりと
掌に残った温度を
静かに孕みながら
これからの道を
そっと照らしていた

雨の中
空を見上げる
明日も、その先も
きっと星は光っている
そう思えた

6598

灯籠と嵐と、遠くの道

08/11 00:46 更新

灯籠流しという行事がある
紙で作った灯籠に火を灯し
水面や道をゆっくりと進ませる
火が消えないように守りながら進むその姿には
先祖への祈りや
大切な人への想いが込められている

子どもの頃
僕は灯籠を抱えて田んぼ道を歩いた
けれど火はすぐに消え
引き返すしかなかった

今の僕は二つの道を抱えている
一つは短い時間で結果が出る道
もう一つは
誰もやっていない積み重ねの道
可能性はあるけれど
結果が出る保証はない
本当は後者を選びたいのに
自信がなかった

そんなある日
仕事で遠くの町へ向かった
祖母が住んでいた田舎の方角
彼女はなぜか僕を嫌い
遊び場はいつも一人だった場所だ

プレゼンでこってり絞られ
疲れ果てた帰り道
電車のアナウンスが
昔よく降りた駅名を告げた
衝動で降りると
景色は変わり果て
田んぼの道は消えていた

歩きながら
あの夏を思い出した時
雷が鳴り
空が暗くなった

気づくとそこに
あの日の田んぼ道があった
灯籠を抱えた少年が立っている
――子どもの頃の僕だ

少年の火が揺れる
僕は駆け寄り
両手で覆って守った
風が強くなる
上着を脱ぎ
雨を防ぐ
嵐のような豪雨が襲いかかる
泥水が跳ね
灯籠の紙が湿る
それでも僕は必死に走った

気がつけば
これまでで一番遠くまで来ていた
そう思った瞬間
少年も道も消え
頭上で花火が弾けた
胸の奥まで震わせる音
汗と雨に濡れた体のまま
しばらく空を見上げていた

翌日
僕は迷わず可能性のある道を選んだ
どんな嵐でも
強い想いがあれば
火は消えない
そして遠くまで行ける
そのことを
あの日の自分が教えてくれた


僕は新しいスタートラインに立っている
灯籠の火は
まだ胸の奥で揺れているまま

6598

夏と数式と、夜空のギフト

08/10 00:29 更新

暑い雨の中、自転車をこぐ
すれ違うのは、いつも挨拶をくれる人
その優しさが嬉しくて
なぜか少しだけ憤りも混ざる

いつものカフェに着く
コーヒーの香りに包まれながら
数式の海で思考を巡らせる
まだ誰もやっていないこと
自分にしかできないこと
自由になりたい誰かへの
ギフトを形にするために

時間は静かに流れ
やっと、その贈り物は完成した

ある夜
胸の奥で風船がはじけた
数式の間で見つけた感情のノイズ
ふと流れた別れの歌が
僕の中の何かをほどいていく

風船を夜空に放つ
銀河に溶けていくような感覚
星が降る
夏が終わる前に訪れた、ひとつの奇跡

そして、この詩が始まる
未来へ歩く二人を
静かに見守るように

だからこのまま、
涙の粒を胸にしまって
それでも前を向き
声を紡がせて

まだ見ぬ誰かの心へ
詩を響かせて

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ネバーランドと鉛筆と、動き出す針

08/09 02:47 更新

ネバーランド。
それは永遠に子どものままでいられる約束の地。
成長も老いもなく、守られた楽園。
けれどその先にあるのは──
安全か、自由か。
時間が動き出したときにしか、それは分からない。

僕は子どもの頃、
何でも答えられるほうだった。
手を挙げても、先生はあまり当ててくれない。
クラスで上位でもトップじゃないから、
親に褒められることもなかった。

やがて、教室に居るのが苦痛になり、
卒業する頃には成績は下の方。
優秀な子だけが行ける“約束の地”を諦め、
僕の時間は止まった。

大人になってから、
周りと違うからこそ得られる結果があると知った。
その瞬間、僕の中で止まっていた針がわずかに動いた。

ある日、仕事で行ったのは、
行政が運営する特殊な学校施設。
高い塀と木々に囲まれ、
外部からの視線を拒むように建っていた。
立入禁止の巨大な闘技場があり、
そこだけ空気が濁っていた。
鬼が棲むなら、きっとここだ。

巡回中、一人の少女と出会った。
周りに馴染めない様子だったが、
僕が話しかけると、
嬉しそうに笑い、小さな鉛筆をくれた。
監視室に戻っても、なぜか彼女の顔が離れなかった。

翌朝、監視室の前で、
上層部とリーダーの会話が耳に入った。
「一番頭のいいあの女の子、明日鬼の餌になるらしい」
点と点がつながった。
ここは、意に沿わない優秀な子を鬼に差し出す場所だった。

──助けなければ。
巡回しながら逃げ道を確認した。
明日、必ず実行する。

翌日、マスターキーを腰に下げ、
護身用のスタンガンをポケットに忍ばせた。
彼女が警備員に脇を抱えられ、
闘技場へ連れ込まれていく。

僕は背後から静かに近づき、
スタンガンを押し当てた。
火花と共に、警備員が崩れ落ちる。
彼女の手を掴み、木々を縫うように走る。

出口まであと少し──
その瞬間、リーダーが前に立ちはだかり、
羽交い締めにされた。
息が詰まる。視界が揺れる。

ポケットの中に、まだあの鉛筆があった。
迷わず握り、力の限り突き上げる。
リーダーの目に鉛筆が沈み、
悲鳴が夜を裂いた。
腕が解け、地面に重い音が落ちる。
僕たちはその隙に走り抜けた。

木々を抜けた先に、
高い塀の外の風があった。
彼女は泣きながらも笑っていた。
その顔を見て、僕は確信した。

自分が自分であると気づいたとき、
止まっていた時間は動き出す。
ネバーランドの先にある道は、
安全か、自由か──
選ぶのは、他の誰でもない、自分だ。
そして僕は、もう二度と檻には戻らない。

6598

ゼロと刃と、ポケットのしおり

08/08 10:54 更新

都市伝説にこういう噂がある。
死ぬと“チェックポイント”まで巻き戻る力――「死に戻り」。
ただし条件は一つ、強烈な痛みと絶望を味わうこと。
観測し直せば世界はやり直せる。けれど、そのたびに体の奥が痛む。

朝、目が覚めるたびに、微かな違和感があった。
同じ人生を何度もループしている手触り。
「気のせいだ」と言い聞かせて通勤電車に揺られる。

僕は夢のために、大きな賭けに出ていた。
知り合いの投資家に誘われ、
“うまくいけばチート級”の逆転劇。
「大丈夫、俺を信じろ」
その言葉を、信じたい自分がいた。

勉強会の前、本屋で時間をつぶす。
苦労の果てに一歩ずつ夢を叶えた女性のノンフィクション。
ページの間に挟まっていたしおりには、
「毎日の積み重ねでしか成功はつかめない」
その一文だけが、掌に温度を残した。
僕はしおりをポケットに滑り込ませる。

夜更け、勉強会が終わり、街は息を潜めたみたいに静かだった。
家の手前、見覚えのない細い路地が口を開けている。
引き寄せられるまま踏み入ると、行き止まり。
踵を返そうとした瞬間、道が消えた。

壁が呼吸を始め、アスファルトが波打つ。
空気が黒く凝り、どこからか女の声が滑り込む。
「“また”戻りたければ、ここに来な。」
次の瞬間、視界が墨で塗られ、
目を開けると、路地は消え、いつもの通りへ。
“また”って、どういうことだろう。
疑問だけを連れて、眠りに落ちた。

翌朝、電話が鳴る。
「投資先が飛んだ。資金は戻らない」
言葉が耳の中で砕け、世界の輪郭が崩れる。
暗転――脳裏に、あの路地の入り口が灯った。

探す。靴底が火花になるほどに。
見つかる。喉が鳴る。
奥まで進むと、今度は逃げ道なんて最初からなかった。
黒いものが滲み、声が低く笑う。
「また来たね。そこに短剣がある。いつも通り、自分を刺しな。」

指が柄を握る。冷たい金属が、手のひらで獣になる。
胸の中央に刃先を据えると、世界が耳鳴りだけになった。
『強烈な痛みと絶望を味わうこと』――それが切符。
刃が心臓を見つめ返す。
そのとき、ポケットの中で温度が芽を出した。
しおりだ。紙切れが、春みたいに暖かい。

「もう戻るのは終わりだ。」
音にならない声が、路地全体に広がる。
「ここからは、自分の足で歩いていく。」

光が来る。
黒が砕け、壁がほどけ、空が降りてくる。
気づけば、僕はいつもの道に立っていた。
背中の汗が風に乾き、心臓がただ前だけを指す。

それからの人生は、
「強烈な痛みや絶望を味わう」という祈りに似た呪文から、
「痛みや恐怖はあっても、希望を感じる」という
日常の姿勢へと、ゆっくり形を変えた。

毎朝、同じ時間に目を覚ます。
昨日より少しだけ整った机。
ページの隙間に眠るしおり。
“毎日の積み重ねでしか成功はつかめない”。
その言葉を、今日は声に出して読む。

僕はもう、やり直しの刃を選ばない。
失敗したら、やり直すために生きる。
足の裏で距離を測り、心で時間を編む。
一歩、また一歩。
チェックポイントは、もう“死”じゃなく、
夜ごとに積み上がる小さな達成の上に置く。

ふと、夜道で振り返る。
路地はどこにもない。
代わりに、遠くの窓に灯る明かりが、
僕の一日を静かに観測している。
目を閉じ、深呼吸。
世界はやり直さない。
僕が、続ける。

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月と少女と、二つの影

08/06 22:59 更新

量子力学には、こんな考え方がある。
「観測するまで、現実は確定しない」
つまり、世界は見る者によって形を持つ。
この理論を突き詰めると──
「誰も見ていなければ、月すら存在しないかもしれない」
そんな不思議な世界を、ニールス・ボーアという物理学者は提唱していた。

ある夏の夜、
不本意な転勤を命じられ、深夜バスで長距離を移動した。
バスを降りたのは、夜の9時。
湿った空気に汗が滲み、
重たいスーツケースを引きずりながら、
知らない街を歩いた。

ふと見上げると、空には満月。
──美しく、そして静かだった。

その光に照らされて、
地面に「二つの影」が映っていた。
「え……なんで?」
そう思った瞬間、影はひとつに戻っていた。

職場は最悪だった。
埃と暗がりと、黙った人たち。
けれど、数日後には少し心許せる仲間ができた。
昼休み、ふとした会話の流れで、
僕は彼に打ち明けた。

「実は…会社を辞めようと思ってる」
「システムを作って、自分の力で生きていきたい」
「怖いけど、それが夢なんだ」

彼は興味深そうに聞いてくれた。
嬉しくなって、僕は思っていることを全部話した。

でも翌日、会社に行くと、
空気が変わっていた。

「お前、なんか変なことやってるんだってな」
「お前と仲いいあいつが言ってたぞ」

――裏切られた。
信じていた人に。
夢を笑われたようで、
心のなかにあった火が、急に小さくなっていった。

その日の帰り道、
なぜか街が、いつもより暗く感じた。
空を見上げても、月がなかった。

それから何日も、月は姿を見せなかった。
なのに不思議と、
それを「おかしい」と思うことすらできなかった。

ある日、会社のパソコンで量子力学を検索した。
その中に、こう書いてあった。

「月は、誰も見ていなければ存在しない」

ハッとした。
もしかしたら、
僕の存在が薄れているから、月が消えたんじゃないか?

胸がざわついた。
このままじゃ、僕は本当に消えてしまうかもしれない。

あの夜のことを思い出した。
満月に照らされて、二つの影があったあの道を。
あそこから、何かが始まっていた気がした。

僕はスーツケースを引いたあの道を、もう一度歩き出した。
ひとつ、またひとつと歩を進める。

するといつの間にか、
左手に、小さな手の温もりがあった。

驚いて見ると、
そこにはおかっぱ頭の、小さな女の子がいた。

彼女は僕を見上げて言った。

「思い出した?」
「まだ間に合うよ、自分を信じて」

その瞬間、
胸の奥で何かが弾けた。
波のような衝撃が、全身を駆け巡る。

次に顔を上げたとき──
空には、あの日と同じ、いやそれ以上に美しい、
大きな満月が浮かんでいた。

僕の影は、ちゃんと地面に伸びていた。
もうひとつの影は、
いつの間にか消えていた。

それから数ヶ月後、
僕は転勤先を離れ、
自分の場所へと戻ることができた。

あの時、自分の存在が揺らいでいた僕は、
いま確かにこの場所に立っている。
誰に笑われても、何を言われても、
僕は僕を“観測”し続ける。
信じて、見つめて、照らし続ける。

今夜も、
僕の頭上には、あの夜と同じように
静かで、
大きくて、
美しい月が、ちゃんと浮かんでいる。

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旋律と闇と、地下の光

08/06 01:17 更新

ギリシャ神話には、愛する人を追って冥界へと降りた詩人がいる。
その名はオルフェウス。
竪琴の音で冥界の王ハデスすらも心を動かし、
妻エウリュディケを連れ帰る許しを得た。
ただし一つだけ条件があった──
「地上に戻るまで、決して振り返ってはならない」
けれど彼は、不安に負けて振り返ってしまう。
愛する人は、再び闇へと連れ戻された。

朝、目覚めると
隣の家からピアノの音が聴こえてくる。
リストの「ラ・カンパネラ」。
子供の指が跳ねるたび、音が宙に舞い
最後の最後で、ほんの少しつまずく。

それでも僕には完璧だった。
ひとつひとつの音が、昨日の続きを
小さな手で紡いでいた。

けれど──母親の怒鳴り声が割り込む。
「そんな弾き方じゃ意味がない」
不完全は、価値がないのか。
僕はその音を背中に受けて、会社へと向かう。

今日は面談の日だった。
マネージャーと、未来の話をする日。
でも僕の心は、別の音で鳴っていた。

地下駐車場の奥。
仕事中のふりをして、
スマホ越しに仲間と話す。
僕の作ったコンテンツが、今まさに立ち上がろうとしていた。
給料は半分。保証はゼロ。
でも、これは誰もやったことのない旅。

「辞めていいのか…?」
その問いが胸に浮かんだ瞬間だった。

──バンッ
蛍光灯が一斉に落ちた。
目の前の世界が、黒い墨で塗り潰される。
照明の音が反響し、コンクリートが脈打つ。

背後に何かがいる。
生ぬるく光る気配。
振り返れば、楽だったかもしれない。
でも僕は振り返らない。そう決めていた。

次の瞬間、静寂を切り裂くように、
あの「ラ・カンパネラ」が聴こえた。
子供が奏でる、いびつで、でも美しい旋律。
失敗を恐れない指の震えが、
真っ暗な空間を灯していく。

僕はその音を辿って、前へ進んだ。
足元が見えなくても、確かなものがあった。
気づけば、地下駐車場の入り口に立っていた。

面談室に戻る。
マネージャーが言った。
「これから何を目標にしていくんだ?」

僕は言った。
「会社を辞めて、自分らしく生きていきます」

一瞬、空気が止まった。
マネージャーは口を開けたまま、何も言えずにいた。
その表情を見て、なぜか心が軽くなった。

「辞表は後日出します」
そう言って、ドアを閉めた。

翌朝。
また、あのピアノが聴こえてくる。
小さなつまずきと、
それでも前へ進もうとする音。

僕は自転車に乗る。
会社とは違う方向へと舵を切る。

完璧じゃなくてもいい。
誰かの正解じゃなくてもいい。

不完全でも、美しいと思ったその方角へ──
振り返らずに、ただ、進んでいく。

きっと、
あの子も、そうやって音を紡いでいるのだと思う。

6598

自由とチェンソーと、未来の選択

08/04 22:42 更新

毎朝10キロを走っていた
帰宅してからも、腕立て100回、腹筋500回、スクワット500回
眠くても、痛くても
「我慢すれば、必ず報われる」と信じてた

カッコよさって、
耐えて、結果を出すことだと思ってたから

──でも、ある日
身体は音を立てて壊れた

人生初の入院
ベッドの上で、僕は初めて「休む」という行為に戸惑っていた

病室には皮肉屋のAさんがいた
「痛がりすぎだよ」「もっと我慢しなよ」
僕は言い返した
「してますよ。でも、痛いんです」

……それでも悔しかった
彼の言葉をなかったことにしたくて
僕はリハビリを無視して、限界まで歩いた

1週間で回復した
「ほら、やっぱり我慢すれば結果は出るんだ」
自分にそう言い聞かせた

会社では、また“誰もやりたがらない仕事”が僕のところに回ってくる
上司は笑って言う
「お前は体力あるから大丈夫だろ?」

気づけば、やりたくもない作業を
“効率化の鬼”として完璧にこなす自分がいた
評価されること、それが正義だと思い込んでた

今日もサービス残業
胸の奥がズキズキする
痛い、なんだこれ……

終電のホーム
誰かが後ろをついてくる気配

──振り返った瞬間

天井から、チェンソーを構えた怪物が飛び降りてきた

Aさんの顔だった

心臓に激痛
胸の中心から何かが──引き抜かれる

長い“紐”が出てきた
それを引いた瞬間、両腕が──チェンソーに変わった

血が滲むほどのエンジン音
Aさんが突進してくる
僕は両腕のチェンソーを十字に構えて──切り裂いた

熱と断末魔が空気を裂き
僕は静かに言った

「未来のない我慢パーティーは──もう終わりだ」

そして、意識が遠のいていった

──気がつくと
朝だった

病院のカーテン越しに、光が差していた
昨日より少しだけ自由な呼吸ができた

我慢することは、悪くない
でも「我慢が正しい」と思い続けたせいで
自分の願いや感情が、ずっと置き去りになっていた気がする

だから僕は決めた

これからは
“欲望のために我慢する”ことにする

鍛えるのも、努力するのも──
誰かに認められるためじゃない

僕が「こうありたい」と思う自分になるために

今、両腕に宿るこのチェンソーは
もう誰かの評価のためじゃなく
自分の“自由”のためにだけ、うなる

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