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写メ日記

全84件中11~20件を表示

龍生の投稿

貴族と幻影と、ダンピール

07/09 01:52 更新

僕は子どもの頃から、
なんとなく自分が“普通じゃない”ことに気づいていた。

興味のあることには、何時間でも没頭できる。
でも、興味がなければ、まるで動けない。

高校1年ではビリだった僕が、
翌年には学年トップ。
オール100点の答案用紙を前に、
なぜか「これが普通」だと思っていた。

でも、周りには理解されなかった。
学校でも、会社でも──
僕はずっと、どこにも居場所がなかった。

 

そんな僕にも、ひとつだけ自信があった。

それは、「根拠のない自信」だ。
感受性の強さと、理由なき確信。
たとえ誰かに否定されても、
どこかで信じていた。
“僕は僕でいいんだ”って。

 

ある日、投稿した詩が少しバズった。
感じたまま書いただけなのに、
「言葉が沁みた」
「涙が出た」
そう言ってくれる人たちが現れた。

気づいた。

僕は「言葉にできない想い」を、
“代わりに信じて、言葉にしてあげる”存在なんだ。

──人間とバンパイアのあいだに生まれた存在。
影を背負いながらも、人を守るために剣を振るう。
僕は、“ダンピール”だったんだ。

 

ある日、僕のもとに依頼が届く。
「娘がバンパイアにさらわれた──助けてください」

相手は“貴族”と呼ばれる、強大な力を持つバンパイア。
誇り高い存在が、なぜ人さらいを?
疑問を抱えながら、僕は彼の前に立つ。

貴族の瞳に宿る、かすかな痛みに気づく。
──愛してしまったんだ。
彼は、その娘を。

だが、愛し方を知らなかった。
信じることが怖かった。
だから彼は、娘を閉じ込めた。
その手で、彼女の世界を奪った。

 

「古城に来い」
そう言い残して、貴族は娘と共に飛び去った。

 

古城に着くと、
棺桶が揺れ、影のような霧が立ち昇る。
カーミラ──幻影で心を操る、魔性のバンパイアが現れる。

信じることを恐れた貴族は、
カーミラの幻影に囚われ、
自分も、愛する人も縛りつけていた。

僕にカーミラが襲いかかる。
だが僕は、信じていた。
言葉の力も、自分の存在も。
だから幻影は届かない。

──その一太刀で、すべてを断ち切った。

 

貴族はゆっくりと跪き、
凍えた娘の手を震える指で包んだ。
「もう隠れなくていい」
小さな声に、何年分もの涙が滲んだ。

 

言葉を信じていなかった僕が、
誰かの「生きる力」になれると知った。
それが、僕自身を救うことにもなった。

 

そして今日も、
言葉の届かぬ闇にひとり佇む誰かに、
胸の奥で灯しつづけた光を、
そっと──剣のように差し出す。
「信じることは、もう一度生きることだから」

 

──僕は、ダンピール。
人でもバンパイアでもない、
けれど確かに、“言葉の剣”を握っている。

今も、誰かのために。
そして、自分のために。

6598

豚と呪いと、自由の設計図

07/07 19:50 更新

僕は、人生の分岐点に立つとき
いつも “かっこいい” と思う方を選ぶ。

 

かつて、会社で僕に勝てる者はいなかった。
知識、スピード、調整力。
どれをとっても、誰よりも上手くやれる自信があった。

でも僕は、自分に“呪い”をかけた。
「はい」と笑って、
無理なことも「できます」と言って、
顧客の嘘にも、上司の無茶にも、全部応える。

──そうやって
僕の姿は、豚になった。

 

ある日、部下が大きなトラブルを起こした。
会社は騒然となり、
誰もが“責任を押しつけ合うゲーム”を始めた。

僕もそうだった。
資料を整え、誰よりも早く顧客に頭を下げて、
「僕は無実です」と、形だけの正義を装う。

 

でも──
そのとき、僕の愛機“ダンピール”が
不調のまま空に舞い上がった。

後ろから海賊の不意打ちを食らって、
僕は機体ごと、海へ墜落した。

 

海の底で僕は出会った。
世間の波に染まっていない、純粋な少女に。

「今のままじゃ、勝てないよ。
でも私が手伝うから──
自由に飛べるように、設計し直そう。」

彼女の瞳には、
僕が忘れていた “空” が映っていた。

 

決戦の日。
ビルの最上階。
会議室には、偉そうな“敵”が並んでいた。

僕は、改造した愛機に乗って
空の決闘場へ飛び立った。

 

空中戦は拮抗していた。
背後を奪い合う消耗戦。
気がつけば、燃料が尽きて
二機とも、海へ落ちた。

 

そこからは、拳の勝負だった。
殴って、殴られて、
痛みも、言葉も超えて、ただ──本音をぶつけ合った。

倒れかけたそのとき、
クロスカウンターが決まって
僕はようやく、
“言い訳の仮面”を打ち砕いた。

 

会議室で、
資料よりも感情を前に出して話した。

すると──
偉い人が立ち上がって言った。

「わかった。今回は、こちらで持ちます」

 

彼女がそっと寄ってきて
僕のほっぺにキスをした。

その瞬間、
豚の呪いは解けていた。

 

かっこいいと思う方に進めば、
自分を偽る必要なんてない。

自由は、
“好きに飛んでいい”という設計図から始まる。

 

──今の僕は、
海を越え、風を抜けて、
もう一度この空を、自由に飛んでいる。

6598

光と陰と、ローズマリー

07/05 10:50 更新

君は
誰にも気づかれないように
星の言葉を拾い集めてきた人

この世界のまぶしさに
そっとまぶたを伏せながら
それでも誰かの痛みに
先に気づいてしまう

傷つくたびに
“普通”の仮面を整えて
ちゃんとできてるふりをして
笑ってみせるその瞳に
僕は今日、風の奥のひかりを見た

僕は
夜の影と光の境目を
ずっと歩いてきた

完全でも、不完全でもなく
器用でも、不器用でもなく
誰かを救うために生まれたわけじゃないけれど
“誰にも言えなかった気持ち”が
どこに隠されているか、なぜか分かってしまう

それが
僕の剣

でもその剣は
誰かを傷つけるためじゃない
心の奥の氷を
静かに砕いて
悲しみがやさしさに変わる瞬間に
立ち会うためのもの

今日は君と、
ローズマリーの香りが漂うホテルで
おいしいごはんを食べて
ほっとする湯気に包まれて
まるで幼なじみに戻ったみたいに
笑いながら
いくつもの“ただの瞬間”を重ねた

それは魔法じゃない
でも、魔法より大切なものだった

癒して、癒されて
触れて、見つめて
ふたりで静かに
この世界の隅っこに
“居場所”をつくっていた

君の背中が駅に消えていくとき
胸の奥に
ひとつだけ確かな言葉が灯っていた

きっと忘れない
ってこと

君の歩くその先にも
あの優しい香りがずっと
残っていますように

6598

瞬間移動と廃墟と、自由の下で

07/03 23:26 更新

また気づくと、見知らぬ場所にいた。
最近──
意識がふっと抜けて、
いつの間にか、どこかに立っていることがある。

 

仕事は順調だった。
会社を変え、プロジェクトのリーダーを任された。
構造も契約も、仕組みも人も、
すべてを掌握していた。
「いつでも、なんでもやります」
そう言って、飲み会でも上司のご機嫌をとっていた。
休みなんてなかった。
でも、そういうものだと思っていた。

 

ある日、
髪を束ねた姿が知的で、
笑うと目元がふわりとほどける
綺麗な新入社員がやってきた。

彼女と一緒に現場をまわり、契約に必要な資料を作り、
帰りにごはんを食べるようになった。

一人で走ってきた僕の毎日が、
少しずつ、彩りを帯びていった。

 

そしてあの日──
新規契約に向けた調査で、
内装がすべて剥がされ、廃墟のようになったビルへ向かった。

僕は1階、彼女は6階から建物全体の状況を確認していた。

突如、頭上から照明が落ちてきて、
視界が白く弾けた。

──次の瞬間、僕は6階にいた。
彼女の目の前に立っていた。

「……え? 1階にいたんじゃないんですか?」

 

どうやら僕は、
命の危機と“何かの衝撃”を同時に感じると、
場所を瞬時に移動できるらしい。

その確信が残るまま、数日後──
会社から辞令が届いた。
彼女との同行は終わり、
役職もすべて外され、
別の地域への異動が決まった。

上司には笑って伝えた。
「大丈夫です。もっと頑張ります」

あの日以来、
心のどこかが、抜け落ちたままだった。

 

深夜、
あのビルから呼び出しがかかる。
機械トラブルらしい。

僕は地下へ向かい、
原因箇所と思われるマンホールの中へ──

──その蓋が、何者かの手によって
“重く、確かに”閉められた。

 

真っ暗な空間。
薄れていく酸素。
誰にも届かない声。
天井に伸ばした手。

僕は思い出していた。
あのとき、僕を救った“二つの条件”。

生命の危機、
そしてスピードを持って迫る何か──

 

その時、かすかに聴こえてきた。
水が流れる音。

このビルの地下には、
巨大な水槽がある──そんな話を思い出した。

僕は壁伝いに水音のほうへ進み、
視界の先に、青く湿った鉄の塊が現れる。

両手で足場を探り、
滑りそうな管を頼りに、
必死にその縁までよじ登った。

10メートル以上はあったかもしれない。

僕は立った。
足が震えていた。
でも、やるしかなかった。

 

──飛んだ。

 

次の瞬間、
土砂降りの雨の中、僕は外にいた。

息ができた。
自由の空気が、肺を満たした。

 

3日後、
新しい職場の上司に頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします。
──3か月後に辞めますが。」

 

今、僕は
“自由”という空の下を歩いている。

瞬間移動は、もう使えない。
でも、わかってるんだ。

あの闇の中で、
僕はようやく知った。

明日が見えない夜ほど、
人は静かに立ち止まってしまう。

でも、
あの一歩がなければ、
僕はまだ、あの暗闇にいたままだった。

 

──夢は、
勇気より少し先にある。

6598

絹と鬼怒と、星のカード

07/02 22:33 更新

彼女からのメッセージは、
いつも夜のスキマから届く。

眠れない夜、
見えない力がほしくて
空を見上げると、
そこに小さな希望が瞬いていた。

でも今夜は──
その星空が黙っていた。

明け方、
窓から差し込む光といっしょに、
遅れてメッセージが届いた。

彼女は今、
何かと静かに向き合っていた。
言葉の端ににじんだものを
僕は、ちゃんと受け取った。

痛みを隠さず、でも誰のせいにもせずに
いつものように、まっすぐだった。

彼女は、絹のようだった。
触れたとき、優しさで包み込まれる。
でもその奥には、
鬼怒のような力が流れている。

自分に嘘をつく世界を
静かに、確実に壊していく力。
その手に誰も気づかなくても、
彼女は星のように、闇を照らしていた。

僕はその覚悟を、
両腕いっぱいに抱きしめた。

僕がこの世界に足を踏み入れたのも
太陽みたいに強い何かを心に抱えていたから。
それはいつしか川となり、
海に流れ、
いつの間にか、誰かと、世界と、繋がっていった。

馬鹿げてるかもしれない。
でも、
「楽しんで生きていく」って決めたんだ。

誰が何を言おうと、
この道を、僕は僕の足で進む。

そういえば──
夢が叶った日、
仲間が誰もいない帰り道で
ふと入ったコインランドリー。

当たり前を手放した先で、
ぽっかり空いた心に、
ひとつの優しさが、そっと入ってきた。

外国人の青年に親切にしたら
缶ビールをくれた。

言葉も交わせないまま、
それだけの出会いだったのに──
世界が少しだけやさしくなった気がした。

絹のように優しく、しなやかに。
鬼怒のように、
誰かのためじゃなく、
“自分の真実”のために立ち上がる力を持って。

優しさと強さを、
両方とも抱えて生きる彼女が、
今日も星のカードを手にしている。

夜が深くても、
星は遠くても、
灯火はちゃんと残ってる。

きっと僕たちは、
進めるだけの何かを、
もう持っている。

6598

月光とライターと、フリーダム

07/01 22:59 更新

会社の歯車が回る音に
自分の鼓動がかき消されていく日々。
愚痴と義務がこびりついた
飲み会の夜。
僕はそのテーブルに座りながら、
別の景色を夢見ていた。

地下にある
小さなジャズバー。
そこには夢が生きていた。
三つの仕事をかけもちする青年、
「月光」を弾くピアニストの彼女、
どこか遠くを見ているような目で
笑っていた。

会社員のほうが安定している。
そう思いながら、
僕は彼らに
嫉妬と憧れを混ぜた視線を投げていた。

帰り道、
いつも通る、不思議なビル。
きっと僕の中にも、
開かれていない扉があったんだと思う。

真夏のある日。
休日のはずの朝。
僕とNさんとOさん、
いつもの3人だった。
慎重すぎるNさんと、
ヘビースモーカーのOさん──
気はいいけど、いつもどこか煙たがられていた。

その3人で例のビルに向かった。

作業中、
月光が窓から差し込んでくる頃、
ビルの気配が変わった。

──唸り声。
1階にいた“人々”は
月の光を浴びて、獣に変わっていた──
まるでライカン、狼の血を宿した影のように。

僕らは暗闇へ逃げ込んだ。
月光の届かない場所だけが、
安全地帯だった。

けれど──
ビル内の温度は、
黙って僕たちの理性を溶かしていった。

2人は耐えきれず、
光の差す出口へ向かった。
その後、悲鳴は
闇に吸い込まれていった。

音楽が聴こえた。
──「月光」だった。
そういえば、
このビルの地下には
マンホールがあると聞いていた。

問題は、
そこにどうやって辿り着くか、だった。

僕は、
Oさんのポケットから
ライターを拝借した。

スプリンクラーのヘッドに火を当てる。
冷たい水が天井から噴き出し、
ライカンたちは混乱した。

僕は走り、
防火シャッターの起動ボタンを押した。
閉じていくシャッターの向こうで
何かが吠えた。

その隙に、
僕は暗い階段を駆け降りる。
音楽を頼りに。
感覚だけを頼りに。
マンホールに辿り着いた。

目が覚めた時、
2人はそこにいた。
笑っていた。

「ずっと寝てたよ」
「作業は終わらせておいたから」

帰り道、
僕はふいに言った。

「……会社、辞めようかと思います」

──暗闇の中でも
音を頼りに、前に進めるとわかったから。

家に着いて、ポケットに手を入れると
あのライターが入っていた。

銀色のライターには、
こう刻まれていた。

“FREEDOM”

あのビルは、現実だったのか。
幻だったのか。
それは、もうどっちでもいい。

僕は今、
誰かの光じゃなく
自分の音で、
進んでいる。

6598

盾と剣と、閉じた劇場

06/30 22:48 更新

僕はその日も、
誰かの望む役を演じていた。
職場に評価されるために、
必要と言われた国家資格を
いくつも、いくつも集めた。
気づけば、それだけが
僕の価値のようになっていた。

今日も人が足りないからと
休日の静けさを切り売りして、
都内のいつものビルへ向かう。

そのそばにある、
古びた小さな劇場──
いつも閉じていて、
でもなぜか、ずっと気になっていた場所。
いつか行こう、そう思いながら
僕はその日も通り過ぎた。

作業着に染みついた薬品の匂い。
無数の細かい傷が、何も語らずまとわりつく。
電気室での作業中、
ほんの一瞬、端子に触れた。
火花。
強烈な閃光。
世界が、一瞬で白くなった。

気づくとビルは静まり返っていて、
外に出ると、あの劇場の扉が開いていた。
そして──
中から、僕にそっくりな何かが出てきた。

「今すぐ決めろ」
空から声が落ちてくる。
「そいつを倒さなければ、お前が死ぬ。
夜明けまでに仕留めなければ、
その首の爆弾が爆発し、
この世界は我々のものになる」

首元には見慣れない重み。
触れると、ひんやりとした金属の感触があった。

目の前に現れる、剣と盾。
無表情の“僕”が、
何のためらいもなくそれを手に取る。
僕もまた、手に取るしかなかった。

──同じ顔、同じ肉体、同じ力。
なのに、どうしてこんなにも違う。

クローンの剣が僕の脇腹を裂く。
浅い傷のはずなのに、
血が止まらない。
痛みよりも、
自分自身に負けていくような感覚が怖かった。

僕は逃げた。
ただ、逃げた。
いつの間にか夜が明けかけていた。

あと少しで、爆発する。
この世界も、僕も、全部──消える。

その時だった。
遠くで誰かが囁いた。
いや、たぶん心の奥の声だった。

「偽りを、やめろ」

僕は、盾を捨てた。
両手で、剣を握った。
クローンはそれを見て、
ゆっくりと笑った──“演じられた”笑顔で。

僕は走った。
剣を、まっすぐ、盾の中心へ。
その奥にある“何か”へ。
一撃で、貫いた。

意識が戻ると、
携帯が鳴っていた。
会社からの電話だった。

「作業は終わったか?」

「……終わりました。」

(……演じるのは)

帰り道、劇場に目をやると
“本日で閉館”の貼り紙が揺れていた。

あの日から僕は、
安心という盾を
静かに地面に置いた。

代わりに、
両手で剣を握っている。
傷ついても、震えても、
偽りじゃない声で生きていくために。

あの劇場は、
ずっと僕の中にあった。
閉じたままの自分を
何度も通り過ぎていたんだ。

その扉を、ようやく、
自分の手で──壊せた。

6598

ノイズとスコールと、夏のマジック

06/30 01:08 更新

僕はその日、
ひどく沈んでいた。
何が悪かったわけじゃない。
けれど、
繊細な心はいつも
真っ先に自分を責める。

心の澱を払うように
身体を揺らして、呼吸を整えていたころ
空から細かな雨が落ちてきた。
それとほぼ同時に、彼女からの灯りのような気配が届く。

いつも、
誰よりも優しく世界を受け取ってしまう人。

僕は何も考えずに、ただ向かった。

やがて雨はスコールへと姿を変え
すべての輪郭をぼやかしてゆく。
そしてその雨のなかに、
彼女は立っていた。

静かな笑顔の奥、
ふとこぼれる影。
語られなかった言葉のかけらが、
その瞳に滲んでいた。

僕はそっと寄り添い、
言葉にならないままの想いを感じとった。
その心に吹いている風を、
詩に変えて受け止めようと思った。

彼女の感情が、
スコールのように溢れ出す。

僕は抱きしめた。
けれど、たぶんあの時、
僕の方が抱きしめられていたんだと思う。

あれは、夏のマジックだったのかもしれない。
雨も涙も混ざって、
ただ静かに、
僕たちは同じリズムで呼吸していた。

ノイズに満ちた日々の中で、
ずっと探していた静けさ。
リズムに身を委ねるようにして
ようやく、世界と繋がる道を見つけた。

流れ出すものを
止めようとしなくなったとき、
全てが少しずつ、円を描き始めた。

帰り道、風がやさしく吹いていた。

ずっと言葉にできなかった何かが、
ようやく拾い上げられた気がした。

「ここにいるよ」
誰にも届かなかったその声が
ようやく、誰かの胸に触れた気がした。

スコールはやがて川になり、
海へと流れ、
太陽に照らされ、
風になる。

誰かを濡らしたその涙は、
いつか、誰かをそっと癒す風になる。

僕は、
そう信じている。

6598

空白と少女と、ウィンナーコーヒー

06/29 01:51 更新

僕は自由になるために
深夜バスに乗り、東京を目指していた。
新しい明日を探しにいく──そんな旅だった。

心の中は、
お金、自由、成功……
あらゆる欲望でいっぱいで、
“空白”の入り込む隙もなかった。

その夜もまた、
深夜バスの途中、サービスエリアで休憩をとる。
人気のないカフェでウィンナーコーヒーを注文した。
その甘くてほっとする味に、少しだけ心がゆるむ。

ふと顔を上げると、
黒い服を着た無表情の少女が目の前に立っていた。

「ゲームをやめないで」

──そうつぶやいたかと思うと、少女はすぐに姿を消した。
夢でも見たのかと思い、スマホを取り出し
いつもの無料ゲームを開こうとするが、ログインできない。

早朝。東京に着く。
だが、空気が異様に重い。
巨大ビルの外壁モニターに映る緊急速報。

「人工衛星がハッキングされ、
宇宙から強力なレーザーが発射されました。
都市が一瞬で壊滅状態に──」

その瞬間、遠くで閃光が爆ぜ、轟音が響く。
キノコ雲が空を覆い、街が煙になった。
人々の叫び声とサイレン。
映像にノイズが走り、画面いっぱいにあの少女が現れる。

「この世界を、焼き尽くす」

僕のスマホが震える。
見ると、さっきログインできなかったゲームが勝手に起動していた。
僕の頭に、なぜか**“kuuhaku”**という言葉が浮かぶ。

──kuuhaku
僕はそれを入力する。
すると、画面には「No game」とだけ表示される。

僕は静かに目を閉じ、そして開いた。
そして──No lifeと入力した。

少女の映像が、滝のように端から崩れていく。
最後に一瞬だけ、こう表示される。

「私を、忘れないで」

あの事件は、それを境に起きなくなった。

東京に戻った僕は、
小さなカフェに入った。
マスターと従業員しかいない、静かでお洒落な空間。

席についてメニューを見ていると、
まだ注文していないのに、
少し懐かしさを帯びた美しい女性の手が、
ウィンナーコーヒーをそっとテーブルに置いた。

顔を上げると、そこには誰もいない。

マスターに尋ねる。
「さっきの女性、従業員の方ですか?」

彼は首をかしげて言った。
「うちにはそんな娘、いませんよ」

僕はコーヒーをひと口すすった。
甘くて、少しだけ苦い。

そして、立ち上がる。
まっすぐに歩き出す。

──この世界で、もう一度。
自由というゲームを、プレイするために。

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水溜まりと薔薇と、ブラウンシュガー

06/27 02:26 更新

かつて僕は、親会社のプロジェクトリーダーだった。
50人のサプライヤーをまとめて、
毎日が誇りとやりがいに満ちていた。

「このまま課長かもな」
そんな期待すら、浮かんでいた。

──でもある日、僕は“戻された”。
子会社へ、作業員として。
その席にはもう役職なんてなく、
ただの“歯車”が、待っていた。

それでも逆らえなかった。
会社に人生を預けていた僕は、
命じられるまま、田舎の宇宙工場へ通った。

巨大な工場には、似つかわしくない
可愛らしい女性がいた。
彼女は作業員だったが、
笑顔で力仕事をこなしていた。

彼女は、いつも僕にコーヒーを淹れてくれた。
普通の砂糖じゃない、
少し贅沢な“ブラウンシュガー”とともに。

僕はそのシュガーを、こっそりポケットに入れた。
その甘さが、工場の中で唯一の“音楽”だった。

ある日、工場は不気味な静寂に包まれていた。
埃も、光も届かないクリーンルームで、
作業員たちが、血まみれで倒れていた。

そこには牙を生やした“バンパイア”がいた。
彼女もまた、血を吸われて
“あちら側”に堕ちかけていた。

バンパイアは僕を見つけ、襲いかかってくる。
僕はとっさに巨大なファンを回した。
やつは粉々に砕けた。
けれど──再生した。

再び襲いくる怪物。
僕は逃げながら、ポケットの中を握った。
そこに、あの“ブラウンシュガー”があった。

最後の賭けだった。
再生する細胞に、砂糖を混ぜる。
やつの身体は狂い、崩れ始めた。

僕は斧で天井を砕き、
太陽の光を呼び込んだ。
バンパイアの身体は、焼けて消えた。

彼女は、まだ完全には堕ちていなかった。
「コールドスリープで宇宙に送り出して」
そう願う彼女を、僕は薔薇とともに
カプセルにそっと納めた。

最後にキスをして、
僕は彼女を、永遠の旅路に送り出した。

次の日、会社に向かう途中で
僕はふと、空ではなく──
“宇宙(そら)”を見上げていた。

小学生の頃に聞いた言葉を思い出す。
「水たまりは宇宙にはなれないけど、
宇宙を写すことはできる」

僕はもう、“泡”のように消える人生ではなく、
宇宙を映す旅を選んだ。

それは、永遠じゃない。
けれど確かに、僕だけの光だった。

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