あの日の笑顔から数日──
彼女は、そこにいた。
「久しぶり」と僕が言うと、
「そんなに経ってないじゃん」って、
ふわっと笑って、
時間さえ軽やかにすり抜けていく。
地下に潜る秘密基地、
深海を泳ぐリュウグウノツカイのように
今日の彼女も、誰にも触れられない場所にいた。
「見てないよ」って言うけれど、
その目の奥は全部、知っていた。
ポケットにある鍵で
開けるふりも、閉めるふりも
彼女はとても上手だった。
お互いの歩んできた道は違っても
中心にある“感謝”だけは、
どうしようもなく、同じ温度で存在していた。
午後の深海で感じたのは、
素直じゃない微熱。
言葉にしない揺らぎと、
伝えられないけど伝わるもの。
ひとりで歩くと味気ない道も、
彼女と歩けば、
もどかしくて、
でも海に飛び込んだ時のような
あたたかさがあった。
深海に溶けた夢の味みたいに、
今日の記憶もまた、
胸の奥で、
静かに熱を持ち続けるのだろう。
