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写メ日記

全157件中1~10件を表示

龍生の投稿

優しさと瓦礫と、ドリームリペア

10/17 23:53 更新

子供の頃
公園の池には噴水があった
その水面の下にはいろんな魚が泳いでいた

本当は入ってはいけなかったけれど
僕は池の中に入って魚を捕まえた
川に返してあげようと思ったのだ
――魚を救いたいと思った

大人に見つかり怒られた
魚は池に戻された
池の中と外の川
どちらが幸せだったんだろう

――時が流れ 僕は会社員になった
オフィスの蛍光灯の下
毎日のように上司と顧客と戦う資料を作り続けた
成果を出せば 自分も仲間も救えると思っていた

作った資料には心の温度はなく
体裁だけを整えた優等生のようなものだった
僕はただ 戦うために動く人になっていた

――実は僕には
もう一つの顔があった

壊れた“記憶”を修理する技師――
ドリーム・リペアラー

事件や事故で過去の記憶を失った人の意識に入り込み
記憶を修復し 真相を究明して事件を解決していく仕事だ

修復のためには
ヘルメット型の装置を頭に装着し
僕と対象者をコードで繋ぐ

意識を接続した瞬間
僕は相手の心の奥 深い仮想空間へとダイブする

その世界には必ず“魔物”が潜んでいる
それは記憶を壊している存在
僕はいつも その魔物と戦ってきた

勝てば修復は成功する
負ければ 自分の感情を少しずつ失っていく
そして最悪の場合――
仮想空間の深層に囚われて 自分の存在ごと消えてしまう危険な仕組みだ

それでもこの仕事を選んだのは
人の痛みを癒し 真実を取り戻すことで
自分も救われると信じていたからだ

――ある夜 ニュースが流れた
トンネルで列車事故
助かったのは一人の少女
他の乗客は全員 生き埋め状態のようだった

その時 スマホが震えた
修復依頼 対象は――その少女だった

列車事故の衝撃で 記憶を失っていた
意識の深層で “自分の存在” を閉ざしていた

僕はヘルメットを装着し
コードを繋ぐ
電流が走り 視界が暗転する

次の瞬間
僕はトンネルの中に立っていた
焦げた鉄の匂いが鼻を刺す
ひしゃげた車体の間を縫うように 奥へと進む

――その時だった
空気が揺れた
冷たい風が背筋を撫でる

闇の奥で “何か” が蠢いた
黒い影が ゆっくりと形を変えながら
こちらを見ていた

時間が止まったように感じた
鼓動の音が 自分の中で爆ぜる
視界が震える

次の瞬間――
轟音とともに 魔物が飛びかかってきた

僕は反射的にエネルギーガンを構える
素早い動きを見切りながら
エネルギー弾を放つ

閃光が弾け トンネルが白く焼ける
力は拮抗していた
互いの攻撃が空気を切り裂き
僕の体力だけが 消耗していく

轟音が響き渡る
魔物の咆哮がトンネル全体を震わせる
その腕が空気を裂き 僕の頬を掠めた

――速い
一瞬の隙を突いて 僕は地を蹴る

閃光を纏ったエネルギー弾を放つ
炸裂音と共に爆風が起き
熱風が肌を焼く

魔物の身体がねじれ
黒い霧を撒き散らしながら
半分が吹き飛んだ

焦げた破片が宙を舞う
トンネルの壁に衝撃が反響する
視界が白と黒に塗り潰される

その瞬間――

空中に文字が浮かぶ
〈修復不能〉

光が揺らめく
再生を始めた魔物の身体が
ゆっくりと形を取り戻していく

「なぜだ!」
僕は叫んだ

その輪郭に
どこか見覚えがあった

光が差し込み
仮想空間の奥で
魔物の顔がはっきりと見えた

――それは僕自身だった

僕はすべての記憶を思い出した

列車事故に遭い
トンネルに閉じ込められていたのは僕だった

食料も尽き
瓦礫の前で力尽きて横たわっていた
崩れ落ちた天井から
微かな光が差し込んでいた

助けを呼ぶ声も出なくなり
やがて静寂だけが残った

その時――
外から瓦礫を崩す音が聞こえた
レスキュー隊の声だった

伸ばされた手が見えた瞬間
僕の意識は途切れた

――魔物が再び咆哮を上げる
その時 少女の声が聞こえた

「やめて 戦わないで」

世界が真っ白に光る
少女の記憶が流れ込む

僕は思い出した
瓦礫の中で 力尽きる寸前に
ポケットの中から免許証を取り出した

震える手で丸を付けた
「臓器提供をする」――そして書いた
『少女にあげて』と

隣には 同じく瓦礫の前で助けを待っていた少女が横たわっていた
僕は死を覚悟して
列車事故で一緒に閉じ込められたその少女に
自分の臓器を提供することにしたのだった

少女と僕はレスキュー隊に助け出され
少女は意識を取り戻し
僕は昏睡状態になった

彼女は 僕を助けるために
ドリーム・リペアラーになったのだ

――魔物が僕に向かって襲ってくる
僕は両手を広げ その攻撃を受け止めた

“自分の痛みを 自分で受けるように”

衝撃が身体を突き抜ける
心の奥で 何かが軋んだ

その瞬間
自分を守るために築いた「偽りの優しさ」や「正しさ」が
魔物の一撃で崩れ落ちた

砕け散る光の中で
ほんとうの“僕”が ゆっくりと顔を出した

空中に浮かぶ文字――
〈修復完了〉

視界が静かに滲む
光がゆっくり遠ざかっていく

――僕は薄く目を開けた
白い天井
機械の音
点滴が腕を伝っていた

隣のベッドで少女が眠っていた
その表情はまるで夢を見ているように穏やかだった

朝の光が差し込み
僕は静かに息を吸った

救うことが自分を削ることだった日々
けれど今は違う
“救うこと”は“共に生きる”ということだ

あの日 池の魚を川に戻そうとしたように
誰かを想う優しさは 時に間違えるけれど
その想いがある限り 僕はきっと前へ進める

白い光の中で
僕は微笑んだ

終わりではなく 始まりとして

6598

ギルドと鎖と、天使の悪魔

10/14 23:18 更新

子供の頃
家の屋根裏には倉庫のスペースがあった

天井に鍵を差すと
カタンと音がして
階段が現れる

子供の僕がしゃがんで
やっと歩けるくらいの高さ

そこにおもちゃを置いて
遊んでいた

家の中に湿った風が吹く日は
その屋根裏に逃げ込んだ

天井裏のスペースは
避難所でもあり
牢獄のようでもあった

――時は流れて

僕は会社員として働いていた
理不尽な上司
不条理なルール
飲み込まれていく日々

ただ成果を出すために
動くようになっていた

優しさや理想を守るために
感情を殺し
言いたいことを飲み込んだ

そして心の奥に
別の“戦う自分”を作った

他人を傷つけたくないからこそ
生まれたその人格は
いつの間にか
僕の心を閉じ込める檻になっていた

――実は僕は
ギルドを作って
ある敵と戦っていた

その敵は
可愛らしい女の子の姿をしていた

だが凶悪で
僕たちに死の攻撃を仕掛けてくる

倒しても倒しても
何度でも現れる

まるで
クローンのように

彼女は満月の夜にだけ現れた

僕たちは彼女を
“アザゼル”と呼んだ

ギルドの集合場所は洞窟の中
僕たちはそこで武器を作り
戦い続けていた

ギルドのメンバーは
このアザゼルに狙われ
戦い、逃げながら
いつの間にか集結した仲間たちだった

戦えば戦うほど
アザゼルは狂暴になっていった

終わりが見えなかった
それでも戦うしかなかった

――満月の夜

洞窟の奥で足音が響いた
僕は息を潜めて呟いた

「……来た、アザゼルだ」

空気が裂けるように震え
洞窟全体に凶悪なオーラが広がった
背筋が凍る
今回は違う、と直感した

次の瞬間
アザゼルが凄まじい勢いで突進してきた

爆音が轟き
光がはじけ
岩が砕ける
仲間の叫びが反響して
洞窟全体が悲鳴を上げた

残った仲間で
ありったけの武器を放った

閃光が連続し
耳鳴りの中で
アザゼルはたまらず崩れ落ちた

その瞬間
僕は息をのんだ

崩れゆく彼女の顔が
“天使”のようだったからだ

その姿に
僕は動揺した

あの凶悪な光を放っていた彼女が
まるで天使のように
祈るような姿で
穏やかに目を閉じていた

その時
微かな声が聞こえた

「洞窟の奥に行って――」

それは
崩れ落ちたアザゼルの唇から
かすかにこぼれた声だった

――僕たちは進んだ

暗闇を突き進み
狭い通路を抜ける

やがて
光が差す大きな空間に出た

そこで見た光景に
僕たちは息をのんだ

岩の中央で
アザゼルが鎖に縛られていた

腕と足を冷たい鎖が絡みつき
彼女の身体を地へ縫い止めていた

「なぜ…アザゼルが」
誰も言葉を発せなかった

その時
背後から音がした

振り返ると
何十人もの凶悪なアザゼルたちが
闇の奥から姿を現した

絶体絶命

僕は鎖に縛られたアザゼルを見つめた
その顔は
天使のように穏やかだった

その瞬間、気づいた

「彼女は……僕たちと同じなんだ」

誰も傷つけたくないからこそ
“戦う人格”を別に作った

僕たちは
彼女の鎖に手を伸ばした

重い金属音が響き
鎖がほどけていく
その瞬間――

洞窟が閃光で包まれた

眩い光が天へと吹き上がり
凶悪なアザゼルたちが
“天使のアザゼル”に吸い込まれていく

その光は
怒りも恐れも呑み込み
すべてを静寂に変えていった

叫びと祈りが混ざり合い
光はひとつの形に還った

アザゼルは
天使でも悪魔でもない
ただの女の子に戻った

その姿を見て
僕たちの中の“戦う天使”も
静かに消えていった

――ギルドは屋根裏の倉庫のようだった

人が心の奥に作る避難所

傷ついたとき
そこに閉じこもって自分を守る

けれど
誰かを救うために戻るとき
そこはもう牢獄ではなく
祈りの場所になる

自分を守るために作った壁が
いつの間にか檻になる

その檻を壊すのは
戦うことではなく
分かり合うこと
受け入れること

湿った風が止み
屋根裏の階段が
静かに元の場所へ戻っていく

僕は鍵を握りしめたまま
しばらく天井を見上げていた

6598

雨と光と、終わりのない始まり

10/12 17:20 更新

現実逃避で弱っていく細胞
何も持たないと思ったけど
生きていく才能が
あっけなく僕を生かした

太陽が雲の隙間から覗く
けれど僕は
何度もそっぽを向かれた

びしょ濡れの夕方
雷が響く中
何も考えずに自転車を走らせた

空と木のあいだに見えた閃光が
絶望と見わけつかない
虚しさに変わる

濡れた靴下を脱ぎ
手の中の温かさを感じる
踏んだフローリングが
優しい音を奏でた

寝転んだ芝生から見上げた空
太陽の匂いが
思い出をかすめていく

雲に隠れても
そこにいると知っている

風で白いカーテンが揺れ
胸に触れた雫が
星の中の思い出に溶けていく

――雨と光のあいだで
息をしている
それだけで
少しだけ前に進める気がした

6598

ピアノとトラップと、実力至上主義

10/11 00:29 更新

子供の頃
怖い音楽の先生がいた

学校の音楽がよくわからなくて
何度も怒られた僕は
次第に宿題をするのが嫌になり
わざとやらずに行くようになった

僕は
宿題をやらない唯一の生徒として
先生に覚えられていた

ある日
先生が言った
「宿題を全部やらないと
卒業させないよ」

怖くて
放課後の教室に残った
先生と二人きりで
静かな時間が流れた

僕は黙って
一枚ずつ宿題を終わらせていった

全部終えたあと
先生がふと
窓の方を見ながら言った

「実はね
先生は遠くに行くことになって
もう明日で学校を辞めるの」

その声は
これまでと違う柔らかさを帯びていた
顔には
今まで見たこともない笑顔と穏やかな顔

そして先生は
少しだけ楽しい話をしてくれて
ピアノを弾いてくれた
放課後の光が音に変わるようだった

僕は少し悲しかった
けれど
初めて先生と学校が
少しだけ好きだと思えた

――時は流れ、

僕は会社員になった

実力があっても報われない
成果と努力が釣り合わない世界

上司に好かれた者だけが
上へと昇っていく
そんな構造の中で
僕はいつの間にか
人を駒のように扱うことに慣れていった

それが組織という名の現実だった

――実は僕は
会社とは別に
国家が秘密裏に運営する

「高度能力育成学校」

に通っていた

表面上は“誰にでもチャンスがある”社会
けれど実際には
生まれ持った環境と性格と能力の差があり
その差をどう使うかがすべてを決める

この学校は
その差を究極にまで活かすことを教える
“実力至上主義”の場所だった

学園長は頭が良く冷静で
「平等とは幻想であり
能力が重要である」ことを教えてくれた

――翌日学校に行くと
いきなり校内放送が大音量で流れた
学園長の声だった

「これから脱出ゲームをしてもらいます」
「校門まで到着すれば成功
将来の社会的成功が約束されるでしょう」
「出られなければ失敗
退学――それは死を意味します」

生徒たちは数人のグループに分かれ
我先にと校門を目指して走り出した

だが
トラップが牙を剥き
爆風と悲鳴が交錯する
金属片が壁をえぐり
床が沈み込む音が響いた

僕はそれを予想していた
最初に動けば負けだと知っていた

脱出という名の試験に
トラップが仕掛けられているのは当然だった

僕は仲間を集め
司令塔となり
脱出のフォーメーションを組んだ

「前列は確認
中列は支援
後列は警戒」

これでトラップは完璧に回避できるはずだった

しばらく進み
あともう少しで校門というところまで来た
少し安堵したその時

仲間の一人が地雷のトラップに引っ掛かり
大怪我を負った

校門は目の前にあった
あと一歩で成功が掴める距離

「社会的成功を掴み取りたい」
そう思った僕は
怪我をした仲間を置いて
仲間に再度フォーメーションを組み直させて
前に進もうとした

その時
誰かが呟いた
「こんな成功はいらない」

僕はその場の凍り付く緊張感から
一瞬思考停止した

ポケットに思わず手を入れる
指先に触れたのは
子供の頃あの先生と解いた宿題の紙だった

聞こえないはずのピアノの音が
頭の中で鳴り響いた

身体の中に電流が走った
僕は怪我をした仲間を背負い
先頭を進んだ

「たぶん真の実力とは
他人を理解し前に進むことなんだろうな」

僕は呟いた

振り向くと
仲間たちが笑っていた
あの先生のように
優しく穏やかに

学園が仕掛けたトラップは
もはや敵ではなかった

僕たちは校門までたどり着き
このゲームに勝利した

――人は誰かに認められたいと願う
それは弱さではなく
生きることの証だと思う

世界は不平等で不条理
それでも
その中で“どう生きるか”を選ぶのが人

真の実力とは
「自由と孤独を受け入れ
それでも他者と関わる覚悟」
のことなんだろう

ピアノの音が
また遠くで響いていた
放課後の夕陽が
静かに沈むあの教室のように
誰もいない校舎に
優しい余韻だけが残っていた

6598

異能と虎と、万年筆の記憶

10/08 23:48 更新

子供の頃
僕は漫画を描くのが好きだった

万年筆を買ってもらい
紙の上に夢を描いていた

ペン先から滲むインクが
世界を黒く塗ることも
まだ知らなかった頃

やがて万年筆は壊れ
インクは絵ではなく闇を描き始めた
滲んだ線が心の奥まで広がっていった

――時は流れ
僕は会社員になった

結果を出しても
上司には扱いづらい人間と言われ
部下には尊敬と恐れの目で見られた

昇進にも興味はなく
ただ“自由に生きたい”という思いが強かった
死んだように働く人々の中で
僕は“生きる”という意味を探していた

けれど
僕にはもうひとつの顔があった

闇の組織と戦う異能探偵社
その名はヘイヴン

対する敵はアビス
裏社会を支配する闇の支配者で
政治と暴力を操り
人々を支配していた

僕の異能は
“異能力を無効化する力”

万年筆のインクが闇へと変わり
触れた者の力を包み消し去る

それは最強の力であり
同時に誰も救えない能力だった

全ての力を消せる代わりに
自分の存在価値さえも無効化してしまう

ある日
街角で絵を描く男に出会った

小さな女の子を描くその手は優しく
どこかで僕と同じ“生きる意味”を探しているように思えた

僕は思わずその絵を写真に撮った

――その夜 ヘイヴンから指令が届く
港の倉庫でアビスの兵器取引を阻止せよ

倉庫に潜入した僕は息を呑んだ
アビスの一員の中に
昼間の絵描きがいた

取引が始まる
床には並べられた兵器
僕はタイミングを見計らい
インクを放つ

黒い波が闇を飲み込み
アビスの構成員たちが次々と倒れていく

だがその瞬間
天井が砕け
巨大な虎が飛び降りた

咆哮が空気を裂く
その目は獣――いや 人間の悲しみを宿していた

僕は気づいた
あの虎はあの絵描きの異能の化身だと

鋭い爪が閃き
コンクリートが砕ける
熱風と粉塵が渦を巻く

僕はかろうじてかわしながら
傷だらけの身体で立ち上がる

スピードが速すぎて
インクを当てる隙がない

――その時
ポケットの中の写真が指先に触れた

絵描きが笑っていた
あの少女の絵

僕は震える手でその写真を掲げた

虎の動きが止まる
一瞬の静寂

僕はその隙に万年筆を振る
黒い闇が閃光のように走り
虎を包み込んだ

闇の中で
彼の意識が僕の中に流れ込んでくる

――誰かを救いたかった
――でも自分の中の制御できない獣が怖かった

その声を聞いた瞬間
胸の奥が熱くなった

僕は思い出す
子供の頃の自分を
あの頃の僕は
闇ではなく夢を描いていた

「誰かのために生きる」

その言葉が
まるで光のように胸に差し込んだ

万年筆のインクは再び絵を描き出した
闇ではなく 希望の輪郭を

彼の姿は虎ではなく
優しい絵描きに戻っていた

世界は静かだった
港の風が 少しだけ優しく吹いた

「誰かのために生きる」
彼の意識が僕の中に流れ込んだことで
僕の生きる意味が見つかった

戦っているのは敵ではなく
それぞれの心の闇だということ

その痛みを受け入れたとき
人はようやく“自分として生きる”ことができる

僕は今日も万年筆を手に
闇の上に光を刻んでいる

6598

影と陰と、実力者ごっこ

10/07 04:27 更新

子供の頃
トランポリンで跳ねていた

宙を舞い
バク転もバク中も出来た

身体は“原子”のように軽く
宇宙までも飛べる気がしていた

けれど体が大きくなるにつれて
思うように跳べなくなり
風の重さを知った

宇宙を飛ぶ夢も
いつの間にか見なくなっていた

――時は流れ
僕は会社員として働いていた

結果を出しても
上司と合わない僕は
昇るよりも 隠れることを覚えた

その他大勢の影の中
平凡で 目立たず
世界から見たら
僕は小さな「原子」だった

けれど僕には
誰にも言えない“もうひとつの顔”があった

仲間と作った秘密結社――
「シャドウ・エデン」

陰で悪を討ち
悪事を働く“ディアブロ教団”と戦っていた

ディアブロ教団は
廃墟と化した教会に潜み
そこを拠点として活動していた

表では政治を操り
陰では人々に呪いをかけ
悪魔に変えて支配を広げていった

僕たちも表では
目立たない存在のまま
陰に潜み 影を討つ者として
――という空想の世界をつくり ロールプレイングゲームのように
仲間たちとヒーローごっこを楽しんでいた

――その日も
あの廃墟の教会に集まり
空想の続きを語っていた

だが突然、
奥から「ガタン」と音が響いた

入り口の扉が閉まり
闇の奥から
“何か”が近づいてくる

禍々しい気配
焦げた空気
そして、現れたその姿――

魔王と呼ぶに相応しい怪物だった

その巨腕が振り下ろされ
床が砕け、石片が宙を舞う
黒い炎が渦を巻き
仲間たちの悲鳴が空間を裂いた

熱風が吹き荒れ
瓦礫が弾丸のように飛び交い
教会の壁が崩れ落ちていく

僕は叫んだ
「これはただのごっこ遊びだ!」

だが、魔王は笑った

その瞬間、
胸の奥で何かが弾けた

――あの頃の記憶が蘇る

「どこまでも飛べる」と信じていた
あの日の僕が目を覚ました

そして気付いた
世界が、自分を見つめていることに

僕は静かに呟いた
「I am the Core.」――我は核心

体の奥にある核(アトム)が光を放つ

世界が静止し
空気が震え
光が膨張した

轟音、閃光、そして白の奔流

空間が捻じれ
街の景色さえも歪む

それは――
核爆発を凌駕するほどの光

全てを呑み込みながら
音が消え
世界は静寂に沈んだ

次の瞬間、
僕は立っていた

陰でこっそり
世界を操る実力者ごっこをしていたら
気付けば 本当に
世界の中心に立っていた

行き交う人の中で
重なり合う影

埋もれて
世界から見放されていた自分が
静かに宣言した

「世界の中心は、僕だ」

言葉の魔法は現実を変え
自分の憧れる存在を現実にし
核でも蒸発しない世界を作る

その世界は今もどこかで続いている
静かに光を跳ね返しながら
新しい夢の軌道を描いている

そしてその夢の先で
僕はまだ、跳ね続けている

6598

街と彗星と、抱えた花びら

10/05 23:18 更新

抱えた花びらは鮮やかに落ちていって
街の匂いに溶けこんでいく

想い出は色になっても美しく
愛は幻影となって
今日も見える
視線の先の曖昧な光

胸の奥で
風が擦れた
名前を持たない感情が
夜の底で静かに軋む

夜行性のあの街
横断歩道を走って
見上げた空には彗星が彩る

数千の煌めきが儚く散って
滲んで消えていった

洒落てる音楽でステップを踏むほどに
温もりは満たされなくて
ため息が音に変わっていく

夢で逢って過去になる記憶
時計の針が進んで
微睡む幻想の蓋を開けて
偶然が呼び寄せた
何億年も前の星屑が降りそそぐ

惑わされて眠っている街を背にして
夢の中のメロディーに逢いに行く

花びらのように
欠けていた光が
そっと形を取り戻した

終わりのない始まりを
今日も、静かに繰り返している

6598

ショベルカーと意識と、奪われた名前

10/04 02:39 更新

子供の頃
空き地に錆びたショベルカーが放置されていた

今では考えられないけれど
僕はそれに乗ることができた

強そうなものに乗ると
まるでその力が自分に乗り移り
自分まで強くなった気がした

巨大なロボットにまたがるようで
胸が高鳴った

――時は流れ
僕は会社員となり
学歴も肩書も眩しい人々に囲まれた

大きな仕事を任されても
心の奥では
不完全な自分を隠すために
虚勢ばかり張っていた

今日も知っている単語を並べて
やりきった感と喪失感を同時に抱き
出口の見えない迷路を歩いていた

けれど僕には
ひとつの秘密があった

数秒だけ
他人の意識に入り込むことができる
その目に映る景色や
考えを盗み見ることができた

僕は「Aegis(イージス)」という組織に所属していた
能力を悪用しようとする者を防ぐ
それが僕の役割だった

敵対するのは「Dominus(ドミナス)」
能力者を資源としか見ず
徹底的に研究し
兵器として量産することを目的とする
冷酷な組織だった

その日も
街を歩いていると
ドス黒い意識が
微かに空気に触れた

視線の先
そこにはまだ若い女性がいた
高校生くらいだろうか

僕は能力を発動し
彼女の意識に入り込む

意識の奥から流れ込む情報――
彼女は“ボマー”
自爆の能力者だった

さらに深く潜る
背筋に寒気が走る

彼女は見上げたそのビルを
自爆で破壊しようとしていた

よく見ると周囲には
仲間らしき影が数人いた
そのひとりの意識に触れると
彼女が脅され
爆破を強制されていることがわかった

「こいつらDominusだ」
僕は呟いた

彼女を止めなければ――
直感が告げる
強く入り込めば
能力を抑えられるかもしれない

僕は強く念じた

その瞬間
彼女の体が光を放ち
爆発が起きた

轟音が耳をつんざき
火花が散り
ガラスが一斉に砕け落ちる

建物全体が崩れるのではと錯覚したが
破壊されたのは一階部分だけだった

「パワーが足りない、なぜだ!」
Dominusの連中たちが叫ぶ

僕は気付いた
彼女の能力を奪い
半減させていたことに

彼女を救いたかった
その思いが
僕の能力を極限まで目覚めさせた

僕の能力は
意識に入り込むだけではなく
相手の能力そのものを奪うことが出来る力に
変化していた

僕は強烈に念じた

空気が震え
風が嵐のように渦を巻く
稲妻が駆け抜けるような衝撃が走り

Dominusの能力者たちは次々と吹き飛んだ

その瞬間――
僕は彼らの力を“奪った”

抵抗する意識を
無理やり引きはがし
掌で掴み取るように
自分の中へ引きずり込んだ

彼らの能力が
彼らの記憶が
奔流のように流れ込む

力を失った彼らは
能力を失い混乱して
蜘蛛の子を散らすように逃げ去った

僕は倒れそうになりながら
彼女を見た

身体は震えていたが
かろうじて、生きていた

安堵が胸を満たした瞬間
視界が暗転し
僕は意識を手放した

――気付くと
見知らぬ街を歩いていた

自分の名前が思い出せない
あの夜、Dominusから奪ったすべての力と意識が
僕の中に入り込み
自分が誰かわからなくなっていた

でも僕は
本当の自分に戻れるとわかっていた

あの時、彼女を救いたいと思った心は
能力や力の強さではない

ただ純粋に
今までの人生を歩んできた
自分の心だったから

6598

ラジオと未練と、光の学園

10/03 11:42 更新

子供の頃
学校が終わると連れて行かれたのは
親の知り合いの家

東大出の野球選手になれと
空き地でバットを振らされ
間違えば往復びんた

テレビを見た記憶はほとんどなく
友達の話題にもついていけなかった

楽しいはずの時間に
楽しい記憶は消えていた
死後の学園にいるようだった

唯一の救いは
寝る前に耳を澄ませた
ラジオの音楽だけ

――大人になって

会社では歯車のひとつとなり
反発を恐れて
痛みのない毎日を繰り返していた

けれど子供の頃の未練を忘れられず
仕事終わりに通い続けた学校があった
夢を抱えた人々が集う場所
そこに触れていたかった

ある日
音楽を聴きながら帰路につき
背後の車に気づかず
間一髪でかわした

地面に倒れ込み
傷は浅かったが
心には影が落ちていた

――翌日、学校の景色は変わっていた

校舎はどこか歪み
記憶と違う輪郭をしていた
教室に入ると生徒は数人しかおらず
奇妙な静けさが漂っていた

やがて教壇には
見知らぬ、天使のように美しい若い女性が立っていた

「未練が残っているのは
あなたたちだけね」

その声と同時に
女性の手には長剣が現れ
鋭い光を放ちながら振り下ろされた

床を裂く衝撃
仲間の叫び声
僕たちはバラバラに逃げた

次々と倒れていく仲間たち
息も絶え絶えに走り
教室に駆け込み
壁に背を預ける

目を閉じて、開けると
そこに立っていたのは天使
長剣をこちらに向けていた

「未練があるのは
もうあなただけのようね」

刹那
頭に閃く光景
――車の衝突音
僕はあの時、確かにひかれた
ここは死後の世界なのだと

背後に崩れ落ちると
そこにはあのラジオがあった
寄りかかりながら
僕は呟いた

「やっと思い出した
自分のやりたかったことを」

天使に向かって叫ぶ
「戻らせてくれ!」

天使は静かに頷き
長剣を振り下ろす
刃は優しい光となり
僕を包み込んだ

――目を開けると
病院のベッドの上だった
車にひかれ
生死を彷徨っていたらしい

子供のころから
僕は周囲の基準で生きてきた
けれど寄りかかっていたのは
いつもラジオから流れる音楽だった

優しく
時には激しく流れる音は
未練を抱えた人生を肯定し
僕自身の物語を
静かに紡ぎ始めていた

その音楽は
これからも僕に寄り添い
まだ見ぬ物語を
光のように照らしていた

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ひまわりとペダルと、寄りかかったラジオ

10/02 05:39 更新

ないものをねだって
あともう少しと手を伸ばす
茹だるような夕暮れに
イヤホンからこぼれるメロディー

気だるく口ずさみながら
幼い頃の街を漂う
ベッドに寄りかかったラジオ
巻き戻して繰り返したテープ

西日の窓辺に浮かぶ
咲き誇る前のひまわり
花火のように消えていく
儚い時間の残像

掴みきれない空白が
胸の奥で揺れている

太陽に向かって
必死にペダルを漕いで
汗が光の粒となり
夕暮れに溶けていく

進むたび
ひまわりの影は伸び
夕暮れに溶けたメロディーが
遠くで揺れていた

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