夜に腰掛けてたんだよ。
誰もいないバス停のベンチ、冷たい風が頬を撫でる音だけが聞こえてた。
月は雲の切れ間から顔を出したり隠したり、まるでこっちの気持ちを覗いてるみたいに。
スマホも本も開かずに、ただ夜に寄りかかってた。
静けさは時に優しくて、時に残酷で。
だけど今夜は、どこか懐かしい匂いがして、
時間が止まってもいいと思えるくらい、居心地がよかったんだ。
誰かと話すことも、何かを成し遂げることもなく、
ただ息をしてるだけの自分がいて、それが許される夜だった。
街の灯りは遠くで滲んで、
世界はちょっとだけ、ぼくを置いていってくれてた。
それでよかった。
置いていかれるのが、寂しさじゃなくて、
自由みたいに感じたから。
こんな夜があってもいいんじゃないのかな?
理由もなく泣きたくなったり、
根拠もなく安心したりするような、
そんな夜がひとつくらいあってもさ。
明日はまた、忙しさに飲まれていくんだろうけど、今夜だけは夜に腰掛けて、
自分と静かに話をしていたかったんだ。
