いつもの道の、
あの踏切で手を振った背中が
ふいに思い出されることがある。
それ以来、会えなくなってしまった。
でも、あのとき
「しょうがないな」って小さく笑って、
そっと寄りかかってきた、
そのぬくもりだけは、ちゃんと覚えてる。
だから僕は、
冬が終わるまで、さよならを待つことにした。
きっと、冬が終われば——
また会えるって、信じてた。
あの頃、
現実から逃げるように
毎晩、アルコールに身を沈めていた。
酔っても、
何も変わらないことは、わかってたのに。
楽しいことって、なんだろう。
自分を抑えて、
苦しさを飲み込んで、
誰かに合わせて笑って。
それが「大人」だと思い込んでいた。
でもある日、
本当に楽しいってことは、
自分の“好き”をまっすぐに伝えて、
それが誰かの心に届くことだって、気づいた。
そこから僕は、
誰のためでもなく、
自分のために、
いつもの道を歩き始めた。
優しさって、
何かを変える力じゃなくて、
ただ、そっと包むものなんだと知った。
だから、
川の流れのように静かに、
光を差す空のように温かく、
あの人を照らせたならと思う。
今も、きっと——
どこかで、同じ空を見てる。
あの日の踏切の向こうにあった光は、
僕を“いつもの道”へと導いてくれた。
